【紙コミックス①巻11/8発売②巻12/6発売✨】鬼畜御曹司の甘く淫らな執愛
大広間の重厚な扉を開け放ったところで、我が儘なご令嬢のマネージャーらしき男を含めた五、六名ほどの賑やかなグループに遭遇した。
たまたまの偶然なのだろうけれど、なんだか邪魔されているようで、言いようのない苛立ちが加速する。
ーーどこまで僕のことを邪魔したら気が済むんだ!
苛立って内心では毒づきつつも、気にかかるのは侑李のことで。
ーーダメだ。こういう時こそ冷静になって考えろ!
僕は苛立ちを無理くり抑えこんで考えを巡らせた。
あのストーカー男は侑李がパーティーに出席していると思っているはずだ。
だったら会場であるこの大広間に来るはずだ。
もしかしたら、今こうしている間にも、どこかで様子を窺っているかもしれない。
ちょうど僕が辺りを逡巡していると。
「さやかちゃん、今日メチャクチャノリが悪いんだけど、何かあったぁ?」
「ええ、まぁ。でも、目の上のたんこぶが消えてくれれば機嫌も直ってくれると思いますよ~? お、噂をすれば、たんこぶのお出ましだ」
マネージャーらしき男の声が聞こえてきて、同時に僕と視線がかち合った瞬間。
話に夢中だったのか、僕の存在にそこで初めて気づいたらしい。
酷く驚いた表情を浮かべたその男は、バツ悪そうにというよりは、酷く狼狽えているような、そんな様子を見せた。
……何故か、そんな風に感じられて。
それを裏付けるように、すぐに僕から視線を逸らしてしまったのだ。
ーー絶対何かある。
さっきまで男が見ていた方向に視線を巡らせたそこに、侑李と、その背後で距離をとって窺っているストーカー男の姿とを捉えてしまった僕の身体は、何かを考えるよりも先に動いてしまっていた。
そうして気づいた時には、背中から抱き留めた侑李の身体を包み込んだ状態で床に倒れ込んでしまっていて。
どこからか女性の悲鳴が響き渡った。
その声で我を取り戻した僕は、ストーカー男と対峙するため、抱き留めた侑李の身体をそうっと横たえ、自分の身体で隠すようにしてストーカー男の前に立ちはだかった。
そこで初めて、ストーカー男の手にナイフが握られているのに気づいて。
僕の頭には、色んな考えがひっきりなしに飛び交っていたのだった。
幸い、侑李のことを傷つけられずに済んだ。
ーー侑李さえ無事で居てくれればそれでいい。
侑李のために何ができる?
この男が侑李に二度と近づかないようにするにはどうすればいい?
時間にすれば、おそらく数十秒ほどの僅かな時間だっただろう。
その僅かな時間、そんなことばかり考えていた僕には、恐怖心なんてものは微塵もなかった。