【紙コミックス①巻11/8発売②巻12/6発売✨】鬼畜御曹司の甘く淫らな執愛
僕は握りしめていたナイフを投げ捨て、僕の背中に覆い被さるようにして崩れ込んでしまった侑李の身体を腕にしっかりと抱き留めていた。
「ゆっ、侑李っ!? しっかりしてッ! ねえ、侑李ッ! 侑李ッ!」
侑李の頬を両手で包み込むようにして何度もゆすって呼んでみても反応がなくて。
ただ気を失っているだけだとは思いながらも、体調も悪かったし、もしものことがあったらと思うと、怖くて怖くてしょうがなかった。
その傍では、なにやらブツブツと呟きながら立ち尽くしたままだったストーカー男を駆けつけた警官が取り押さえていて。
ふたり居た警官のうちのひとりが僕の元に駆け寄ってきた。
侑李の名前を呼び続けることしかできずにいる僕に、忙しなく何かを話しかけてきた気もするけれど、気を失ってしまった侑李のことしか眼中になかった僕には、他の記憶など残ってはいない。
ちょうどそこに駆けつけてきた櫻井さんの配慮のお陰で、僕は侑李を抱きかかえたまま手配された救急車に乗り込み、光石総合病院まで搬送されたのだった。
到着すると、櫻井さんから事前に連絡を受けていたらしい譲さんと、ちょうど妊婦検診の美菜さんに付き添っていたらしい兄の姿があった。
譲さんの診察により、幸い侑李には何の異常もなく、貧血を起こしただけだということだったが……。
ホテルでの診察時に検尿と採血もしていたと思うのに、色んな検査のオーダーが出されていて、僕の心配は募るばかりだった。
「譲さん、ただの貧血でそんなに調べる必要があるんですか?」
「まぁ、ついでだよついで。それに、なかなか病院に救急搬送なんてされる機会なんてないしさぁ。記念検査ってことで。それより、隼、お前も手当てしてやるから手、出してみろ」
「これくらいの傷、なんともありません」
「侑李ちゃん、お前が刺されたと思ってショックで気失ってんだぞ? せっかく意識戻っても、それ見たらまた気失っちゃうぞ?」
「……お願いします」
「侑李ちゃんのこととなるとえらく素直だなぁ。いつもそうだと可愛いのになぁ。最近は傍若無人な誰かさんの影響受けちゃって、もうやりたい放題。今日もいきなり呼びつけられちゃうしさぁ」
「譲。お前は、よっぽど可愛い奧さんである小百合さんにメスで大事なアレを削ぎ落として欲しいらしいなぁ」
「そのようですねぇ? 兄さん、僕に任せてください。匿名で、若い看護師と不倫してたって電話しておきます」
「お、お前ら。いつもは顔付き合わせたらツンケンして、言いたい放題言い合ってるくせに、こういうときだけ結託しやがって。覚えてろよッ!」
「おい、隼、何か聞こえたか?」
「いいえ、何も」
「……ハイハイ、そうですかぁ。兄弟揃って仲のよろしいことで。どうぞごゆっくり~」
色々話してるうち、とうとう不貞腐れてしまった譲さんが病室から退室した後。
ベッドで眠る侑李の手を両手で包み込んで見つめ続けている僕の元に、兄から思いもしなかった言葉がかけられることになった。
「さっき櫻井って刑事から聞いた。今回の件、円城寺さやかが絡んでるらしいな?」
「……ええ。でも、僕と侑李さんが婚約したって伝えただけで、罪に問われることはないでしょう」
「……それで。大事な婚約者を僕のせいでこんな目に遭わせてしまった。もう僕なんか、傍に居る資格はない。そう思ってるんじゃないのか?」
「……」
侑李の傍で付き添っている間、ずっと考えていたことを言い当てられてしまった僕は言葉を失ってしまっていた。