【紙コミックス①巻11/8発売②巻12/6発売✨】鬼畜御曹司の甘く淫らな執愛
兄が居なくなってからしばらくしても侑李は穏やかに眠り続けていた。
円城寺さやかの件が気になるからと、同席すると言って聞かなかった侑李。
いつものように強がって弱音なんて零しはしなかったけれど、昨夜もなかなか寝付けなかったようだったし。
ここ数日食欲もなかったし、相当無理をさせてしまったんだろうから、そりゃ無理もない。
元の椅子に腰を下ろし、侑李の手を両手で包み込むようにして片時も離れず見守り続けていた僕は兄の言葉を何度も思い返していた。
きっと、穏やかに眠り続けている侑李の寝顔を見つめていたお陰で、少しずつ冷静さを取り戻すことができたんだろう。
ーー正直自分でも驚いた。
兄にあんな風に食ってかかったことなんて、小学生以来だったように思う。
侑李のことにかかれば、僕は一瞬で我を失うことも取り戻すこともできるらしい。
さっきまで侑李の傍に居る資格がない。なんて思ってたクセに……。
侑李が僕以外の誰かと、そう考えただけで気が狂いそうだ。
いつもいつも侑李には、僕でしか満たせないようにする。なんて言ってるクセに……。
ーー侑李から離れられないのは僕の方だ。
侑李から離れられないのなら、自分がどうすればいいかなんて、そんなこと簡単なことだ。
ーー僕のこの命に代えても侑李を絶対に守ってみせる。
「さっきは気弱なこと言って、ごめんね? 侑李」
ーー僕、もっともっと強くなるから。強くなって侑李のこと一生守ってみせるから。
侑李や兄のお陰で、本来の自分を取り戻すことができ、考えを改めることのできた僕は、侑李の手の甲に恭しく口づけて密かに誓いを立てたのだった。
この時の僕の頭の中には、円城寺さやかとの件で、何かあった時の切り札にととって置いた、あるカードを切る決断が下されていた。
ーー僕の命よりも大事な侑李に手を出したことを後悔させてやる。
否、後悔なんかで済ますもんか。誰ひとりとして気づかないようにひっそりと、二度と這い上がってこれないように、地獄の底にたたき落としてやる。
自分では確認のしようがないが、ついさっきまで情けない泣き言ばかりを放っていたとは思えないほどの変わりようだったに違いない。
僕のことを『鬼畜』なんて言いだしたのが誰かは知らないが、あながち間違ってはいないのかもしれない。
少なくとも、侑李のためなら、僕は王子様にでも鬼畜にでも、なんにでもなれてしまうらしい。
そんなことをふと考えていたところに、侑李の手を包んでいた手に微かに反応があって。
侑李の顔に視線を向けると、ようやく目覚めたらしい侑李が寝ぼけたように僕のことをボーッと見つめていて。
たちまち黒いモノで埋め尽くされてしまっていたはずの心の中は、晴れやかに澄み渡り。
僕は、侑李にだけ見せる、とびきりの笑顔で微笑んで見せた。
「侑李、大丈夫? どこか痛むところとかない?」
勿論、笑顔同様のとびきり優しい甘やかな声音も忘れずに。