【紙コミックス①巻11/8発売②巻12/6発売✨】鬼畜御曹司の甘く淫らな執愛
落ち着いてきたとはいっても、自分のせいで僕にケガを負わせてしまったことをずいぶんと気にしていて、泣き止んではいるものの、侑李は相変わらず暗い顔のままだ。
でもこのケガは侑李のせいじゃない。
あのストーカー男のせいであり、あの時結果的に油断してしまった僕のせいでもある。
だから、なんとか侑李の気持ちを少しでも軽くしてあげたい。その一心だった。
加えて、侑李のこととなると、どうもヘタレで弱気な思考に傾いてしまう僕の弱い部分が顔を出してしまっていたらしい。
そんな僕は、侑李にホテルでのことを話して聞かせている途中。
「僕、さっき、ナイフを手で払いのけ損ねたって言ったけど、本当はそうじゃないんだ。本当はあの時、簡単に避けられたんだ。けど、そうはしなかった。何故だか分かる?」
侑李にそう尋ねていた。
おそらく意図が掴めず、何も答えられずにいる侑李と視線がかち合った刹那。
僕のどす黒い感情を知った侑李がどう反応するかが怖くて、ヘタレ思考に支配されていた僕は思わず目を伏せてしまっていて。
そのまま、あの時、心の奥底で抱いてしまっていたどす黒い感情を洗いざらい吐露してしまっていた。
「もし今僕が刺されたら、侑李のことをずっと縛っておける。そんな身勝手な考えが、一瞬だけど、頭に過ったんだ。だから、タイミングがずれて払いのけ損ねたんだよ。そんなこと考えてたんだよ、僕は。だからこのケガは自業自得、侑李のせいじゃない。侑李が自分を責める必要なんてない」
吐露してしまったものの、侑李の反応がどうしても怖かった僕は、侑李が何かを口にしようとしたタイミングで、声を放っていた。
「それと、もう一つ。あのストーカー男のこと、今度こそ社会から抹消してやりたいとも思った。許せなかったんだ。前回のことも、今回のことも。結局そのことで侑李に自分を責めさせることになった。僕こそ、こんな身勝手な男で、ごめん。良かったね? まだ結婚しないうちに本性が分かって」
今まで色んなことを受け入れてくれた侑李に、今度こそ失望されて、愛想尽かされてしまうくらいなら、自分から終わりにしてしまった方がダメージも少ないだろうとも思ってはいたけど……。
なにより、こんなにも弱り切っている侑李に、もうこれ以上重荷を背負わせたくなかった。
でも、どこかで、これまで僕のことを全部受け入れてくれた侑李なら、なにもかも受け入れてくれるに違いない。
そう信じていたのも事実だ。
「……どういう意味?」
「侑李が僕と一緒に居て辛いこと思い出して、さっきみたいに、自分を責めてしまうなら、僕との婚約は解消しーー」
質問に答えた僕が何を言おうとしているか察しがついたらしい侑李が、僕に泣きすがるようにして。
「イヤだ。隼と別れるくらいなら死んだ方がマシ。お願い。もう自分を責めたりしないからっ。そんなこと、二度と口にしないで。お願い、隼。お願い。もう絶対責めないからッ」
僕の首の後ろに両手を巻き付けてグイグイ引き寄せて、小さな子供みたいに泣きじゃくりながら必死になって希ってきた。
侑李のことを信じていたなんていいながら、ヘタレ思考に陥ってた僕は、自信なんて指の先ほどで。
侑李の言葉に、心底安堵し、なんとも形容しがたい嬉しさがこみ上げてくる。
不謹慎にも、感極まってしまった僕は、気づけば侑李の身体をぎゅうっと掻き抱くようにして腕に包み込んでいて。
「侑李の気持ちを試すようなことして、ごめん」
愛おしい侑李の頭を優しく何度も撫でながら謝ると。
「侑李には、あんなストーカー男のことなんかで自分のことを責めてほしくなかったんだ。前回も、今回のことも、悪いのは全部あの男だ。侑李は何も悪くない」
興奮状態でヒックヒックと子供みたいに泣き続ける侑李に、ゆっくりと言い聞かせるように紡ぎ出す、僕のこの想いが侑李に届くようにと、ただ希うことしかできずに居た。
「あんな男のことなんて微塵も思い出せないくらい、侑李のことを僕がめいっぱい幸せにしてみせるから、覚悟しててね? 侑李」
そうして最後に、僕は侑李に誓いを立てるようにして、優しくも揺るぎない声を紡いでいた。
ホッとしたのか、侑李の涙は益々勢いを増すばかりだったけれど。
それでも侑李は、僕になんとか応えようと、返事の代わりにコクコクと何度も頷いてくれていた。