【紙コミックス①巻11/8発売②巻12/6発売✨】鬼畜御曹司の甘く淫らな執愛
すると、侑李にとっては、思ってもみなかったことだったのだろう。
僕の言葉を耳にした侑李は酷く驚いてるようだった。
けれどすぐに、侑磨さんと結婚後に若女将になる予定だった、恵子さんのことが頭を過ったらしい。
「え!? でも、お兄ちゃんの婚約者である恵子さんがなるんじゃなかったの?」
「そのことなんだけどね。どうも恵子さんは以前から『自信がない』って言ってたみたいなんだ。でも、『侑李ちゃんが手伝ってくれるなら』って言ってるらしいんだ。だから、いい話だと思って引き受けちゃった」
その疑問に対して僕の放った、侑李にとってはこれまた寝耳に水な発言に、侑李の困惑気味だった表情が、途端に気色ばんだ。
「はぁ!? 『引き受けちゃった』って、こんな状態でできるわけないでしょッ! 女将の仕事ってすっごく大変なんだからッ!」
でも、侑李から返ってきたモノは、おそらく幼い物心ついた頃から若女将だった母親のことを傍で見てきた侑李だからこそ、言えることだと思ったし。
そんな侑李でなければ、若女将は絶対に務まらないと思った。
ーーやっぱり、僕の判断は間違ってなかったんだ。
この時僕は、そう確信していた。
「だからだよ。女将の仕事のことをよく知ってる侑李が手伝ってあげないと、恵子さんに任せてたら、『橘』潰れちゃうよ? それでもいいの?」
「そんなのダメに決まってるじゃないッ! バッカじゃないのッ?!」
「なら、決まりだね?」
「誰もするなんて言ってないでしょう?」
でもすぐには返事のできない侑李の気持ちだって、分かっているつもりだ。
PTSDになってしまった自分に、若女将なんて務まるのか、不安なんだろうし、できなかったときのことを思うと、怖くて堪らないんだろう。
もしも駄目だった時、今度こそ、もう自分には何もできないんだって、全てを諦めざるを得なくなってしまうんじゃないかって。
確かに、そんなこと医者にだって分からないんだから、無理もない。
でも、やらないで諦めてばかりでもいられないってことも、分かっているはずだ。
でも、その一歩を踏み出す勇気がどうしても持てないのだろう。
だったら、その一歩を踏み出せるように、背中を押すのは、夫である僕の役目だ。
僕は少々強引な賭に出ることにした。
これで駄目なら、まだ侑李には無理だと諦めるつもりで。
僕が侑李に初めて出逢ったあの時、侑李に与えてもらって、これまでずっと持ち続けてきた僕の夢のこと。
そして、その夢を与えてもらった女の子である侑李と、あの時の約束を果たすことが、僕のもう一つの夢であること。
こんなこと言ったら、大袈裟だって笑われるかもしれないけれど……。
もしもあの時、侑李に出逢っていなければ、今の自分は存在しなかったって、言い切れる。