【紙コミックス①巻11/8発売②巻12/6発売✨】鬼畜御曹司の甘く淫らな執愛
いつもの見慣れた光景になっているとはいっても、それが第三者じゃなく、毎回毎回自分の身に降りかかってくるのだから、辟易する。
否、でも、だからといって、隼がいつもいつも気にかけてくれるのが嫌なわけじゃないから、その点は誤解のないように。
そりゃ、表向きには、照れと恥ずかしさがあるから、ちょっと困った風や、迷惑がる素振りを装ったりはするけど……。
それは、こういう性格なんだから、大目に見てもらいたい。
ようやく恵子さんと幸子さんのしつこいひやかしから逃れることのできた私は、ホッとした心持ちで、スマホを忍ばせている懐にそうっと両手を当てて、人知れず隼のことを思い浮かべていた。
今朝、いつもの如く蔵本の運転する車で送ってもらったとき、役員会議があるって言ってたから、おそらくその合間に電話してくれたのだろう。
忙しい仕事の合間のほんの僅かな時間でも、隼にこうして気にかけてもらえていることが、どうにも嬉しくて堪らない。
ーーあー、どうしよう。仕事中なのに、隼に今すぐ逢いたくなってきちゃったなぁ。
ーーもう、何やってんのよ! そんなこと考えてる暇なんてないんだから、さっ、仕事仕事!
危うく思考がおバカな新婚モードに傾きそうになっていた私は、なんとか自分を叱咤して若女将修行に頭を切り替えたのだった。
『橘』のために尽力してくれた隼のお陰で、昼間は、これまで敷居が高くてなかなか足の向けられなかった老舗料亭『橘』の料理を手軽な料金で楽しむことのできるランチが大人気となっていて。
ほんの数ヶ月前までは、あまりご縁のなかった、若いサラリーマンやOLの方々や主婦だけでなく、お一人様でお見えになるお客様方でも賑わっている。
午後二時を少し回った今は、ちょうどランチの時間も過ぎていて、板場の方もずいぶんと落ち着いてきていた。
だから、営業中だというのに、私のことをひやかす余裕があったというわけだ。
これからの時間は、夕方から夜にかけてお見えになるお客様に、非日常の最高の一時を味わって頂くための準備に取りかからなければならない。
今夜は、数ヶ月前からご予約頂いてるお客様が何組かお見えになることになっている。
そのなかには、長年お付き合いのあるお得意様は勿論、ご新規の方もいて、どちらのお客様にも同じように、一期一会の心構えを念頭に、誠心誠意、真心を込めて精一杯もてなさなくてはならない。
それはいつものことなんだけれど……。
今朝職場であるこの『橘』に着いて早々、経営者として復帰している父から、思いがけない指令が下されてしまったのだ。