【紙コミックス①巻11/8発売②巻12/6発売✨】鬼畜御曹司の甘く淫らな執愛

 けれども、相当酔っているせいか、一向に口を開く素振りのない蔵本に、私はだんだん焦れてきた。

 そりゃ、そうだろう。

 つい今し方、タクシー呼ぼうと思って手を上げかけたところで、いきなり腕を掴まれて、この路地に引っ張り込まれたのだから。

「ちょっと先輩、タクシー呼べないじゃないですか。どいてくださいよ」
「お前、隼のセフレなんだろ?」
「何言ってんですか、違いますから」

 そうして焦れた私に返ってきたのが、王子とのことだったものだから、またまた吃驚だ。

 だからって、そんなこと、認められるはずもない。

 きっと王子だって、いくら幼馴染みらしい蔵本に、そんなことまで話しているとは到底思えないし。

 私だって、関係のない第三者なんかにとやかく言われたくない。

「隠したって無駄だ。隼とは兄弟くらい付き合いが長いんだ。見てれば分かんだよ」
「だったらなんだって言うんですか? もしそうだとしても、蔵本先輩には関係ないことです」

 だから、すぐに、いつも部下に放つのと同じように、冷たい口調で突っぱねたというのに……。

「あぁ、関係ないね。ただ、隼のことを好きな女を好きになって、けど、やっと好きになってもらえてたと思ってたのに。忘れられなくて、俺とももう一緒にいられねーつってフラれた俺から、忠告しといてやる」

 思いもしなかった言葉を口にした蔵本の、酔っているせいもあって、潤みを帯びた瞳がやけに悲しげで、今にも泣き出してしまいそうな表情を目の当たりにしてしまえば、それ以上突っぱねることはできなくなってしまっていた。

「本気になる前にセフレなんてやめとけ。あいつ今事情があって、見合いさせられてて。今は片っ端から断っちゃいるが、近いうち身を固めることになると思う」
「へぇ、そうなんですか」

 ーーだから最近、ぜんぜん連絡くれないんだ。そうなんだ。

 いつかそういう時がくるんじゃないかという予感めいたものはあったけれど、いざその時がきていまうと、結構ショックなモノなんだなぁ。

 なんて柄にもなく、ちょっとばかりセンチな思考に傾きかけてしまったけど、本人から宣告された訳じゃない。

 だから、王子本人から宣告されるまでは、まだ、猶予だってあるはずだ。

 これから徐々に王子への募りに募ってしまった想いを消化していけばいいだけのこと。

 ーー簡単なことだ。

「そうなんですかって、あんまり驚かないんだな?」
「まぁ、そりゃ、神宮寺先輩の立場からすれば、そういう政略結婚的なこともあるのかもなぁ……とは思っていたんで。別に驚きはないですね。元々割り切ってましたし」

 そのはずだったのに、どうしてこんなにも悲しいんだろう。泣きたくなるんだろう。

 そんなことを胸の内で呟いていると、眼前で都会の煌びやかなネオンに照らしだされた蔵本の顔がグニャリと歪んできて。

「お前みたいないつも気の強い女がそんな風に泣くなんて反則だろ。バカ」

 そこにすかさず、いつもの茶化すような声とは違った蔵本の切なげな声音が耳に届いたと思った時には、既に蔵本によって腕の中に閉じ込められた後だった。

 どうやら私は柄にもなく人前で泣いてしまっているらしい。
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