【紙コミックス①巻11/8発売②巻12/6発売✨】鬼畜御曹司の甘く淫らな執愛
しばし蔵本に抱きしめられること数分だったと思うが、唐突にそこへ大通りの方から行き交う車のクラクションの派手な音が響き渡った。
瞬間、驚いたらしい蔵本がビクッと大きく肩を跳ね上げて、そこでようやく我に返ったらしい蔵本から、
「うわぁ、吃驚したッ。そんでもって俺、何やってんだ? つか、お前も好きでもない男に大人しく抱きしめられてんじゃねーよッ!」
聞き捨てならない言葉が返されて、挙げ句、私のことを突き放すようにして距離をとると、自分の身体を抱きしめるような素振りをして見せる蔵本に、私は盛大にカチンときた。
「ーーはぁ!? 言っときますけど、蔵本先輩があんなこと急に言うからじゃないですかッ! まったく、酔っ払いには付き合ってられませんよッ!」
「なんだと? 心優しい先輩からの忠告をムゲにする気かッ?」
「心優しい先輩が、普通、可愛い後輩を突き飛ばしますか? それになんですか、その女子が見せるような所作は。あー気色悪い」
「……お、お前、気色悪いとはなんだ? 刑事が民間人に対してそんなこと言ってもいいと思ってんのか?」
「民間人の前に、ただの先輩風情ですから、別に問題なんてないと思いますけどねぇ」
「……可愛げのねー女」
「先輩に可愛いなんて言われたら、それこそセクハラで訴えますから」
「ヒッデーこと言うなぁ。そんなんだから、隼にセフレになんかされんだ。バーカ!」
「……」
小さな子供が喧嘩でもするかのように、酔っ払った蔵本としょうもないやりとりを繰り広げているうち、不意打ちのように蔵本が放ったデリカシーの欠片もない言葉に、柄にもなく打ちのめされてしまった私は、自分が思っている以上に、王子のことを好きになってしまっているらしいことを再び思い知ることになった。
今更、そんなことに気づいたところで、王子からセフレを解消されるのなんて時間の問題だというのに。
けれど、そう簡単に、心を操作できるなら、苦労なんてしない。