【紙コミックス①巻11/8発売②巻12/6発売✨】鬼畜御曹司の甘く淫らな執愛
再びセンチな思考に傾きかけたなんとも絶妙なタイミングで、申し訳なさげにキリリとした男らしい眉を八の字に垂らしてしまっている蔵本から、
「悪い。今のは言い過ぎた。……それと、さっきも。彼女とお前の泣き顔がダブって、つい」
さっきまでの喧嘩口調ではなく、表情同様に申し訳なさそうな声が力なく紡ぎ出され。
蔵本もまた同じなのだろうと思うと、蔵本の姿と自分とが重なって、なんともいたたまれない心持ちになる。
だからって訳でもないが、蔵本と言い合ってはいたが、本気で怒っていた訳ではない。
ただ単に、らしくもない自分自身に対して無性に腹が立っていたんだと思う。
王子への想いが叶わないと想いながらも、どこかで淡い期待を抱いてしまっていたらしい自分自身に対して。
蔵本の言葉でようやく目が覚めた気がする。
といっても、長年募ってしまってる想いはそう簡単にはどうこうできないだろうが、いい機会であることには違いない。
「しょうがないですねぇ。まぁ、今日のところは、酔っ払ってもいるし、失恋したようなんで、可哀想だから許してあげますよ。それから、神宮寺先輩のこと話してくれてどうも。私ももういい歳だし、そろそろ将来のことも考えなきゃなんないし、善処します。てことで、今からタクシー拾いますけど、いいですか?」
「……あ、あぁ。頼む」
私の返した言葉が意外だったようで、蔵本は驚いたように瞠目してはいたが、短い返事を返したきり、それ以上何かを口にすることもないまま、拾ったタクシーで一緒に帰路へとついた。
その道中、もしも王子じゃなくて、蔵本のことを好きになっていたら、何かが違っていたのかな?
なんてことを、タクシーに乗り込んだ途端にシートになだれ込むようにして項垂れたまま寝入ってしまっている蔵本のことを横目に眺めつつ、考えても仕方のないことを思ってしまっていたことは秘密だ。