【紙コミックス①巻11/8発売②巻12/6発売✨】鬼畜御曹司の甘く淫らな執愛
一瞬、いつだったか、すずが言ってた言葉が頭を掠めたけれど。
ーーないないない、そんな少女漫画やドラマみたいなことがある筈がない。
私は必死になって、あたかも水遊びを終えた犬が濡れた身体をブルブルっとして水を振り払うように、何度か頭をふるふると振ってみた。
さっきまで走っていた所為でドキドキと高鳴ったままの胸の鼓動がやけにうるさくて落ち着かないけど、そんなのは無視して頭を掠めた可笑しなモノをなんとか振り払うために。
けれど、そんなことをしてみても、消えてなんかくれなかった。
当然、今目の前で私に手を差し伸べてくれている夢の中の王子様の雰囲気によく似た、ニッコリ笑顔を浮かべているこの男子の姿も。
それに少女漫画やドラマの世界なら、空から降ってきたような突然の出来事に直面した時、時間が止まったように感じるって表現がよくあるけど、あれは、どうやら本当のようで。
「大丈夫? もしかして頭でもぶつけちゃった? ねぇ? 聞こえてる?」
ニッコリ笑顔だった男子の表情が心配そうなものに変わって、何かを言っているようだけど、混乱気味の私の頭には何一つ入っちゃこない。そんな有り様だ。
夢か現か、時間が止まったようなこの空間の中で、頭を掠める可笑しなモノを払拭することに気をとられていた私の手首が突如強い力で掴まれたかと思ったら、そのままぐいっと勢いよく引き上げられてその反動で身体が浮遊するような感覚がして。
その衝撃に私がハッとなった時には、時すでに遅しで、王子様の雰囲気に似た男子に私の身体は抱きとめられてしまっていたからびっくりだ。
立て続けに起こった突然の出来事に何が何だかよく分からない状態に陥ってしまっている私は、抱きとめられたままの体勢で、その男子の顔を凝視することしかできないでいた。