聞こえるまで何度だって言うよ
聖夜だなんだと繰り返す歌がこの場所には流れ続けている。わざとらしく煌めく街の中、僕は足を止めて夜空を見上げた。雪が散らついているから、当然星は見えない。

幼い頃読んだ本の主人公みたいに、「星に願いを!」なんて柄じゃない。でも、君じゃないと僕の隣にいてほしくなくて神様に願うように空を見上げてしまうんだ。

白い息を吐いたら、懐かしい記憶が蘇ってきた。



僕は大学進学を機に、地元の京都から東京へやって来た。地元からほとんど出たことがなく、人付き合いが苦手な僕は、大学へは勉強するためだけに通っているという感じだった。サークルにも入らず、読書をして一日を過ごす。休日は出かける予定もないので、本屋でアルバイトをして生活費を稼ぐ毎日だった。

そんなある日、本屋で新しく届いた本を店頭に並べていると、「ひょっとして家頭くん?」と声をかけられた。振り向くと、講義をよく一緒に受ける女性が立っている。

「やっぱり家頭くんだ!私、葉桜美月(はざくらみつき)。ここでアルバイトしてるんだね」
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