【完】スキャンダル・ヒロイン
そして丁度俺が芸能活動を休止すると同時に、事務所に押され始めてあっという間にトップスターの階段を駆け上がったのは、大滝昴だった。
昴とは寮でも一緒だったし、個人的に仲良くしていたけれどショックだった。…俺でなくてもこの世界のトップスターはいくらでもいる。自分の代わりなど…掃いて捨てる程いるのだと。
静綺がやってきて、殆どコンビニか外食で済ませていた食生活が変わった。
栄養たっぷりな彩りの豊かな食事を毎日作ってくれて、その美味しさに感動した。…本人には素直に言えなかったけれど
そして全く芸能人 姫岡真央を知らない彼女といる時間は、俺にとって安心できる時間になりつつあった。
俺をただの’姫岡さん’として見てくれる。
マネージャーの坂上さんが渡した俺の出演しているドラマや映画のDVDを見てくれて、素直に感動したと言ってくれた。
俺の演技が好きだと言って、そして撮影現場で俺を庇って怪我までして…それでも彼女は笑ってくれた。
こんな気持ちは生まれて初めてだった。
女性へこんな気持ちが芽生えたのは……。
全く男として意識されていなかったが。それもまた俺の中では新鮮で、味わった事のない感情たち。
まさかこの俺が、ただの一般人のどこにでもいそうな女にこんな感情を抱くなんて。
自分で自分にびっくりだ。
そして今日――。静綺の元想い人とかいう奴の地元の花火大会にわざわざ出向いた。
彼女に似合うと思って買った深紅の浴衣は、予想通り…いや予想以上に彼女に似合っていた。
瑠璃さんによって美しくメイクされた派手な顔立ちの彼女の、余りの美しさに照れくさくって何も言えなくなった。