【完】スキャンダル・ヒロイン

「静綺…」

真剣な顔をして私の名を呼ぶ彼の茶色の瞳に目は奪われて
ハスキーで少し掠れた声に、耳が奪われる。

「いつまでもお前っつーのもなんだし、皆もそう呼んでるし…俺も静綺と呼ぶことにする。
あの…なんだ?その…お前も別に俺の事は姫岡さんではなく、呼び捨てで構わない」

少し照れくさそうにそう言った彼のぶっきらぼうな優しさはもう十分伝わっていた。

「いいの?」

「別にいいよ。’皆’もそう言うしな」

「じゃ遠慮なく呼び捨てにさせてもらうね。
今日はありがとうね!姫岡!」

すると彼はその場にすッ転んでしまった。そしてまた顔を真っ赤にさせたかと思うと、怒りながら言った。

「そうじゃねぇだろ!苗字は止めろ。女っぽくて好きではないんだ」

「そう?真央だって十分女っぽいと思うけどね」

「うるせぇな!お前は!」

「なんて冗談。――真央…」

名前を呼ぶと、その場にしゃがみこんで頭を抱えだしてしまった。

本当に良いのだろうか?大人気の芸能人なのに呼び捨てにしてしまったり、恋人の振りまでしてくれた。私が惨めにならないようにだろう。

遠い存在かとばかり思っていたのに、思っていたよりずっと親しみやすくって…こんなに距離が近づいてしまったら、勘違いしそうになる。

きっと彼は本来は誰にでも優しい人間なのだ。だからこんな勘違いしてはいけない。

出会う事はなかったはずの人。しかし出会うはずのなかった人は…まだまだこの世には沢山存在したのだ――。
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