【完】スキャンダル・ヒロイン
今日は人生最悪の日であるという事は既に決定していた。
頼まれてここへやって来たというのに、ファンやストーカー扱いされた挙句
面と向かってブスと言われたのは産まれて初めての経験だった。
けれどもその美しい男は少しも怯むことなく、顔に似合わない失礼な言葉を私へとぶつけ続けた。
「お前程度の女を俺が相手にするとでも思ったか?!」
「自分の容姿を鏡で確認してこい!」
「お前のようなクソみたいなファンがいるせいで俺たちは迷惑してんだよ!」
美しさに騙されてはいけない。これは今後の教訓にするつもり。
けれども全く身に覚えのない罪をなすりつけられて、自分を否定され私は何故黙ったまま震えあがっているのだろう。
スッと大きく息を吸って、目の前でこちらを威嚇する男の頬を思わずグーで殴ってしまった。
その場に情けなく倒れ込んだ男を見て後悔は一切していない。けれども今日が人生最悪の日だというのは決定してしまった。
そもそもこの男との出会い自体が人生で最悪の出来事だったのだ。
私は大人しく 慎ましく 生きて行く 筈だったのに……。