【完】スキャンダル・ヒロイン

「真央くん、大丈夫?何か体調が悪そうだけど」

でもここで立ち止まったら、どれだけの人に迷惑を掛けるって言うんだ。

俺に期待をしてくれている人。こんな俺を見捨てないでいてくれる人。そして――俺の演技を好きだと言ってくれる人を

どれだけ幻滅させれば気が済むんだ。

「大丈夫だ。」

「暑い?ちょっと冷房強くするからね。」

「大丈夫。水飲めばおさまる…」

「クーラボックスの中に入ってるからねー。本当に無理しないでね?体調が悪くなったら僕に直ぐ言うんだよ?」

クーラーボックスを開けると、そこにはお弁当が入っていた。坂上さんの分と二人分。

いくら怒らせたって、無視をしていたって、きちんと俺の分まで用意してくれている。毎日毎日どんなに朝が早くても俺たちより先に起きて…。

ルームミラー越しに坂上さんの優しい瞳が揺れた。

「静綺ちゃんは本当に優しいよねー…。毎日毎日僕の分までお弁当の用意をしてくれてー
まぁ真央くんのついでだろうけどさー」

「ついで、か?」

あいつは基本的に誰にでも優しい。
今日だって昴におにぎりを用意していただろう。

「うん。だって静綺ちゃんは普段は昴くんや瑠璃さんたちにはお弁当まで用意しないもんね。
しっかも栄養満点なの。真央くんの為だけに作ってるんだよー。毎日用意大変じゃない?ってこの間訊いたら、真央にドラマ頑張って欲しいからって言ってたよぉ~…」

途端に胸の動悸が収まって行くのを感じた。じんわりと胸に温かいものが灯る。

きっと静綺は俺の病気の事を聞いている。それが精神的なものからくるものであるという事も知っている。

だから彼女にとってそれは同情だったかもしれない。けれど同情でもなんでも良い。俺の為にしてくれた。その事実の方が何倍も大切だった気がするから。
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