【完】スキャンダル・ヒロイン
「でも……」
「お前絶対坂上さんとかに言うんじゃねぇぞ…」
それだけ言い残し、真央は背中を向けた。
今にも消えてしまいそうな位儚い背中を前に、これ以上かける言葉が見つからなくって。
その手に掴まれた腕の熱だけを残して彼の姿を視線で追うばかり。
「静綺ちゃん……」
名前を呼ばれてハッとした。振り向くとそこには優しい笑顔をした昴さんの姿が。安心するほどに低いトーンの声で優しく喋る。
けれど、私は……あの素っ気ない少し掠れたハスキーボイスが好きだった。何よりも安心した。
どうして私はあの人がこんなに気になるんだろう。何も手に着かなくなってしまう程。こんなの恋じゃないって言う方がおかしいじゃないか。
昴さんの出演したドラマや映画も何本も見た。そつなく何でもこなす彼は演技も上手いし、人の目を惹く容姿をしていた。
けれど……私は俳優としても真央の方が好き。そんな事昴さんには失礼すぎて言えないけれど。
俳優としても姫岡真央。色々な顔を持っていて、目が離せなくなる。けれどもそれは私が真央に密かな恋心を抱いていて、好きな人だからって特別に見えてしまう類のものだったのかもしれない。
「どうしたの?大丈夫?また真央になんか嫌な事言われた?」
昴さんの言葉に首を横に振る。
こんな時だって、気を遣ってくれて優しい。真央の事ばかり考えて約束さえも忘れてしまっていた私だと言うのに。
「違う。違うんです…」