【完】スキャンダル・ヒロイン
寮に着くころには、さっきまでパニックに陥っていた坂上さんも大分落ち着きを取り戻していた。
「静綺ちゃん、さっきはありがとう」
「何がです?」
「スタッフの人に撮影の変更を申し出てくれて…。」
「いえ…私の方こそただの寮のバイトの身で出過ぎた真似をしてしまって」
「全然すっごく助かった。
僕朝から真央くんの体調が悪いのに全然気づかないで…
順調に撮影が進んでいると思ったら、突然真央くんが苦しそうにしたから…どうしていいか分からなくなっちゃって…。
本当に頼りないマネージャーだと思っている。真央くんのちょっとした変化にも気づいてあげられなくって…」
今にも泣きそうな坂上さん。見ているこちらが気の毒になるくらい疲弊している。
「坂上さんの気持ちは真央にも伝わっていると思います。
それにあの人が勝手に無理をしたんだから。皆に迷惑をかけたくないって気持ちは分かりますけど、あんな状況で演技なんて出来ないでしょう?
坂上さんもゆっくりと休んでください」
「本当にありがとうね。昼前までは食欲もあったんだ。静綺ちゃんが作ってくれたゼリーもぺろりと食べてね。
真央くんすっごく嬉しそうだったから。
あのさ、もし良かったら真央くんの部屋に荷物届けておいてくれるかな?
僕が行くよりも静綺ちゃんが行った方が真央くんも喜ぶと思うし」
坂上さんから真央のバックと台本が手渡される。その台本を手にして、思わず涙が出そうになった。
保冷バックに密かに閉まっておいた台本カバー。キリンの柄をしたそのカバーは、私がこの寮へ来た頃真央が買ってくれた私のエプロンとお揃いだった。