【完】スキャンダル・ヒロイン
そのカバーの中に台本は大切にしまわれている。使ってくれた。その優しい想いだけで胸が温かくなるのだ。
キッチンで温かい紅茶を用意する。生姜と蜂蜜とマーマレードジャムを入れ、それを持って真央の部屋の扉をノックをする。
寝ていたら悪いかなと思い返事も待たずにドアを開けると、ベッドから体を起こした真央が眼を丸くしてこちらを見つめる。
慌てて紅茶をテーブルに置くと、真央の背中にそっと手を添える。
「ちょ、寝ていて下さいよ。起き上がらないでッ」
珍しく文句のひとつも言わずに私の指示に従い横になると、こちらへ茶色の瞳を向けてやはり不思議な顔をする。
「紅茶を持ってきたので飲めたら飲んで下さい。
体の方は大丈夫ですか?」
「ああ…点滴を打ったおかげか気分は悪くない」
その言葉と思ったよりも顔色がずっと良かった事で一安心だ。
明日の朝は念のために消化の良いお粥を作ってあげよう。
「そうですか…。それなら良かった…」
いつもより元気がないのは当たり前。だって一応病人だし。
けれど横になってこちらを見つめる茶色の瞳が熱の所為か少しだけ潤んでいて、開けたシャツからうっすらと鎖骨が浮かび上がる。
不謹慎ながらも色っぽいと感じてしまう自分は、本当にどうかしていると思う。
何て事を考えてしまっているのだろう。相手は病人だ。その相手に対して色っぽいだとか触れたいなんて感じるなんて、私はなんて不謹慎でふしだらな人間だろうか。
あぁ神様もしも本当にいるのなら、こんな愚かな私に罰を与えてください。