【完】スキャンダル・ヒロイン
その思いとは裏腹に真央がジーっと視線を落としていたのは、私が手に持っていた台本だった。
「あーッコレ?!坂上さんに真央くんに渡して置いてって頼まれたの」
キリンの柄をした台本ケースに包まれた真央の大切な物。それを手渡すと、彼は愛しそうにそれを指で撫でる。
その顔はとても優しくって、でもどこか子供っぽくって、守ってあげたくなる。
キュン。
って、私ってばだから何を考えているって言うのよ。’キュン’じゃないっての。何をときめいてしまっていると言うのよ。
意識してまともに話せなくなって、互いにぎくしゃくしてしまって…そして真央を好きだと自覚してから初めてまともに向き合ったと思う。
私は自分の顔に’好き’だと描かれているのではないかと思う程、目の前にいる彼に心臓が忙しなく動くのを感じている。なるべく意識をしないように平静を保って、はーっと小さく息を吐く。
「ありがとうな」
「え?」
意外な言葉に思わず間抜けな声が出てしまった。
「台本のカバー。嬉しかったよ。ありがとう」
熱でおかしくなってしまったんじゃないのだろうか。疑ってしまう位今日の彼は素直だった。
少しだけ微笑んでこちらを見る姿にドキドキは止まらない。それと同時に胸がぎゅーっと苦しくなる。それを悟られないように自分の胸を両手で押さえる。
「あの…それはお礼。浴衣を頂いたし…全然金額は違うんですけど…」
「うん。お前の言う通り金の問題じゃない。気持ちが嬉しかった。
それに体調が悪いのにも気づいてくれてありがとう。今日を乗り切れば大丈夫だと自分に言い聞かせていたけど、無理していたら余計に迷惑をかけてたと思う」