【完】スキャンダル・ヒロイン

キュンキュンが止まらない。どうしてそんなに素直なの?あの点滴の中に何かおかしな物でも入っていたんではないだろうか。

あんまり素直に優しい言葉を投げかけられると心臓が持たないよ。 昴さんに甘い言葉を掛けられた時だってドキドキしたしときめいたけれど、それとは全然違う。そのドキドキやときめきの中に苦しい感情がある。

それは私が真央を好きだからだと思う。恋って恐ろしいものだと思う。

「それにごめん」

「ごめん?」

言いずらそうに言葉を探す。いつも吊り上がっている眉毛を下げて、切れ長の涼しい目元も少しだけ困っているように見える。

「あの夜の事…」

あの夜、と言って思い出したのは真央と喧嘩をした夜の事だった。強引にベッドに押し倒されてキスをされた。

実はあれはファーストキスではない。

彼氏の居たことのない私が何故かって?高校生の頃に男の子と遊んだ場面でよくあるゲームで、何とも思っていない男の子とキスをしてしまったのだ。

その頃の私は恋愛経験がないのが恥ずかしいと思って初キスだという事を隠していた。今となっては後悔している。

「あんな事をするつもりは無かった…。
それに俺は静綺をあんな風に思っていない。言ってしまった言葉は取り返しがつかないって分かっている。
それでも俺はお前をそんな女だとは思っていない。芸能人なら誰でもいいんだろうなんて言ってしまって本当にごめん…」

そう謝る真央の姿はとても弱々しくって今にも消えて行ってしまいそう。いつもの強気な態度はどこにもなくって、もしかしたらこれが彼の本質なのかもしれない。

ふぅっと小さくため息をついて、努めて明るく振舞った。気を抜いてしまうと好きだという事が顔に出てしまいそうだったから。
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