【完】スキャンダル・ヒロイン
ひとりでどれだけ思い悩んできただろう。その姿を誰にも見せずにひとりで苦しんできた。その孤独を思い知れば、涙は止めどなく溢れた。
「今回2時間のドラマから始めようと思ったのは全部お前のお陰」
「私の…?」
「お前の作ってくれるご飯は元気になれる。
それにお前と話しているのは楽しい。
お前は俺の演技が好きだと褒めてくれた。
そして俺を姫岡真央としてではなく、ただの人間として心を見てくれた。
お前みたいな女は初めてだった……」
言葉が詰まる。言いずらそうにこちらを見つめる茶色の瞳は、柔らかく揺れる。
ベッドの中から伸びた腕にぐいっと引き寄せられる。耳に当たった心臓からはトクントクンと心地の良い鼓動が刻まれていく。優しく抱きしめられる胸の中から彼の匂いがする。掠れたハスキーボイスも、この匂いも包まれているととても安心できるの。
こんなの、勘違いしちゃうよ。彼の腕の中で考えていた事。
「静綺には感謝している」
最後に彼が言った言葉。
部屋を出た後も自分の中に生まれた熱と指の震えが止まらなかった。
優しくされると嬉しくて、誰にも話していなかったような事を話してくれたら、まるで自分が特別な人間になれたんじゃないかって錯覚する。
自分の立場は弁えているつもりだ。真央は芸能人で、私は一般人。そこに恋が産まれる事は果てしなくありえない事だと思っていた。
ただでさえ最悪な出会い方をしてしまった。