【完】スキャンダル・ヒロイン
泣いたり笑ったり、今日は感情がとても忙しい。
まさかこの私が初対面に近い人達の前で泣いてしまうなんて。
人見知りが激しくて引っ込み思案で、けれどこの顔のせいで人からは意地悪そうとか気が強そうって言われがち。
そうやって周りから言われ続けると、更に強がってしまうのが癖になってしまって…。
弱虫な私はあの日自分の気持ちを誰にぶつけるでもなく、自分の中に閉じ込めてしまった。
ちょっと待ってよ、どうして私の気持ちを無視して2人で勝手にその関係を始めてしまったのよ。
言いたい事は山ほど。さばけた態度を見せて、2人の気持ちを尊重して後押しをしたつもりでも心の中では納得いっていなかった。
どうして私に気のある素振りを見せてその気にさせてそんな酷い仕打ちが出来たの?とでも恨み言のひとつでも、たっくんにぶつけていれば良かった。
友達の振りをして私の事を応援していたのに、譲と付き合おうと思っているって言ったくせに。と、どれだけ泣いても惨めでもしおりに気持ちをぶつけてみても良かった。
思い返してみれば後悔ばかり。
それは私が思いっきり自分の気持ちをぶつけていないからだ。
我慢ばかりして、私さえ身を退けば場が丸く収まると…どこまでも良い子ぶって。
けれど今日出会ったばかりの人の前で思いっきり泣いてすっきりしたのも事実で、テーブルに置かれたキリンさん柄のエプロンを見つめると少しだけ優しい気持ちになった。
今度恋をする事があるのならば、その時は思いっきりその人へ気持ちをぶつけよう。
その人がもしも私を好きになってくれなくても後悔のないように。もう自分の気持ちに嘘をつくのは止めよう。
暫く恋愛をする気力もわかないが…。
けれどそう思っていた私に恋の足音が近づいてきていたなんて、全く思いもしなかった。