腹黒王子に逆らうな!
「って、こんなことしてる場合じゃねぇ!」
「へ?」
梅永君は高そうな腕時計をチラッと見ると、慌てて荷物をまとめ始めた。
「下の本屋、何時までだ?」
「確か8時までだけど……もう過ぎてるね……」
この出版社は1階ロビーがちょっとした本屋になっていて、主に明友社が出版した最新刊が並べられている。
午後8時閉店だけど、スマホを見たら既に8時を過ぎていた。
「あーあ、阿呆と話してたせいで最新刊買い損ねた……」
「わ、私のせい!? 責任転嫁も大概にしてよ! ちなみに、なんの本が欲しかったの?」
さっきまで無表情だった梅永君がこの世の終わりみたいな顔をする本だ。
きっとすごく面白い本なんだろうな〜なんて思ってたら。
「……"パニック・ぱんでみっく"。詩島茎尾の最新作」
「────はい!?」
鞄の中に忍ばせた自身の最新作の名が出て、私は思わず間抜けな声を出した。