腹黒王子に逆らうな!
「好きだ。手に汗握るアクションシーンも、熱くなっちまうような友情の物語も」

ひねくれたヤツなのに、本の話になると素直に"好きだ"なんて言っちゃうの、ズルくない?

言われてるのは私じゃなくて私の作品のことだって、分かってはいるけど。

その三文字に反応せずにはいられないよ。

みんなには向けない、少し腹黒い顔でそんなこと言われたら。



「──これあげる」

私はスクールバッグからまだビニールに包まれた最新刊を取り出すと、梅永君に差し出した。

さっき柳さんに献本として貰った最新刊だ。

「は? なんで……」

「通販で予約してたのに間違えて書店でも買っちゃってさ! よかったら貰ってよ、ね? あ、サイン本じゃなくてごめんね!?」

「当たり前だろ、書店にサイン本あるわけねぇんだから」

そういえばそうだ。

あー正体隠さなくてもよければサインくらい何冊でも書くのに。


「明日にでもマネージャーに買ってこさせる。俺今ジュース代しかねぇし」

「いいって! その代わり、もし時間が取れたら学校に来て感想聞かせてよ。ま、来ないだろうけど気長に待つよ」


正直、全然期待してない。

色んなテレビに引っ張りだこでドラマもCMもオファーがたくさん来るような遠い存在の売れっ子俳優。

こうやって話せるのなんて、割と奇跡に近い。

でもいつか、もっと私の小説の話を聞かせてくれる日が来るといいな。
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