完璧な彼が初恋の彼女を手に入れる5つの条件
「結婚しよう」
「桜衣は飲まなくて良いのか?」
ビールグラスを持った陽真が言う。ジャケットを脱ぎネクタイを少し緩めたリラックスモードも様になっている。
「いえ、結構です」
陽真の向かいに座り桜衣は答える。
桜衣はウーロン茶をオーダーした。
『外では酒は極力控えるように。付き合いで飲んでも乾杯の一杯まで。特に男と飲むときは気を付ける事』と叔父に口酸っぱく言われている。
お酒は好きだしアルコールには弱く無いと思っていて、飲むと楽しくなる程度のはずなのだが
一応その言いつけを守っている。
「再会に乾杯」
笑顔で促され静かにグラスを合わせる。
あの後陽真に連れて来られたのは落ち着いた和食の店だ。
個室に通されたが、内装はモダンなインテリアで、洋風のペンダントライトの照明が
不思議と和食の雰囲気と合っていて面白い。
「オランダから帰って来てあんまり経っていないから、まだ和食が恋しいんだよ」
並べられた料理を前に彼は整った口元を緩めて嬉しそうにしている。
しかし、目線は料理と言うより自分に注がれているような気がするのは気のせいだろうか。
「……先ほどは、ありがとうございました」
桜衣は口を開く。
きっともうあれで、松浦の誘いは無くなるだろう。
密着度が高かった気がするけど助かった。お礼の気持ちは表しておく。
「あぁ」
「……」
――気まずい。
ちょうど昨晩酒のつまみに思い出していた中学時代の同級生が、今こうして目の前にいる。
まさかキャリア入社してくる『結城さん』があの結城陽真だったとは。
13年という時間の経過と立派な成長ぶりに、会ってすぐに彼とは気づけなかった。
確かに当時から整った顔の凛とした美少年だったが、今はそれに男らしい精悍さが加わり存在感がすごいことになっている。
この店に来る道すがらも女性からの視線をビシビシと感じて居たたまれなかった。
逆によく彼は自分だとわかったものだ。
(私は中学生のころから大して変わってないのかな)
微妙な気持ちを覚えながら、とりあえず上品に盛られた前菜に手を付ける。
さて、どういうスタンスで何を話していいのか。
『久しぶり~!』とか『元気だった~?』とか、言えばいいのかも知れないけど何となく軽いノリで行けない自分がいる。
性格的にそうだし、彼に対しては何となくバツが悪い事情もある。
こだわっているのは自分だけで、彼はもうそんなことは忘れているかも知れないけれど。
(しかも、他部署とはいえ同じ会社の部長だし、やり辛いったら)
「――あの、結城さんは」
「気に入らない」