完璧な彼が初恋の彼女を手に入れる5つの条件
「はい?」
「さっきから、俺に向かって敬語。何でそんな距離感がある言い方するんだ? 中学の時みたいにタメ口でいいのに」
首を傾げる桜衣に陽真は不機嫌そうに言う。
(いやいや、距離ありますって!同級生だったとは言え、13年ぶりに会って役付きで入社された人にタメ口なんて叩けないでしょ)
もう、あの頃の自分達では無いのだ。
「……一応、会社では目上の方になりますし」
「今は、会社関係ない。俺は桜衣に他人行儀にされると悲しいんだけど」
「あの、さっきからずっと気になってたんですが、昔も私の事『桜衣』なんて呼んで無かったですよね」
当時はお互い「本間」「結城」と苗字で呼び合っていたはずだ。
「あの頃君は『本間』だったじゃないか、今その呼び方したらおかしいし、名前で呼んだ方が手っ取り早い」
「はぁ」
確かにあの時は母の再婚相手の姓を名乗っていた。
だからと言って再会後いきなり名前を呼び捨てにしたりするだろうか。
普通に今の苗字で呼んでくれればいいだけなのに。手っ取り早いの意味が良くわからない。
食事をしながらポツポツとお互いの話をする。
桜衣の経歴は普通に大学に入って普通に今の会社に新卒で入社して仕事を続けているというくらいしかないが、陽真は大学卒業後建築デザインの事務所に勤務しながら25歳で一級建築士の免許を取得したらしい。
25歳で一級建築士……たしか2年の実務経験が必要だろうから最年少取得だろう。
初回受験の一発合格。改めて優秀さに舌を巻く。
その後ファシリティの最先端であるオランダに単身で渡り、建築系の会社で仕事をしていたが
そろそろ日本に戻ろうかと思っていた折、知り合いにINOSEを勧められ入社を決めたらしい。
(そうか、結局お医者さんは目指さなかったんだ。それにしたって華々しい経歴だわ)
日本でもオランダでも彼を指名するクライアントは居たらしい。
日本で勤めていた会社の話や北欧東欧の建築の話など桜衣にもわかりやすく話をしてくれる。
相手の興味がどこにあるかすぐに感じ取って、上手く説明するところは中学の時から変わっていない。
成績だけではない賢さを持つ彼と話をするのが楽しかった感覚を思い出し、桜衣の緊張も少し解けて来た。
陽真の視線がテーブルの上に置かれた桜衣の左手をかすめる。
「桜衣、結婚は?」
「ん?してませんが」
まだ名前で呼ぶんかい、と思いながら、桜衣は抹茶塩に付けた天婦羅を口に運びながら答える。