完璧な彼が初恋の彼女を手に入れる5つの条件
若いふたりでよろしく

 警戒していたものの、桜衣が願っていた通り、陽真に接触されること無く、数日が過ぎて行った。
 
 就任したての彼は忙しくフロア内にいる事が少なかった事もあるだろう。
 
 念のため桜衣はフリーアドレスの働き方を活用し、さりげなくオフィスエリア転々とした。

 自社とベンチャーのソフトウェア開発会社が共同で開発したアプリケーションは優秀だ。
会社支給のスマートフォンの位置情報により社員の居場所はフロアマップ上に表示されるので、
ちょっと検索すれば、自分が会って話したい相手がオフィスエリアのどこにいるかすぐわかるのだ。
 逆に言うと、会いたくなくて話したくない相手がどこにいるかもわかるのだ。

 桜衣は陽真がフロアにいる時は集中ブースに避難するなどして、ナチュラルに場所を変えて
遭遇しないようにしていた。

(うん、よしよし。やっぱり顔を合わせなければ大丈夫)

 そもそも、結婚しよう云々はやはり彼の冗談だったんだ。

 うん、そうだ。普通真面目にそんなこと言う訳ないよね、と完全に安心しかけていた一週間後の朝の事だった。

 作業エリアで資料作成をしていると、画面にポン、と佐野からの通知が入る。

『ちょっと、ミーティングブースにきてもらってもいい?』
『はい、今行きます』

 桜衣はすぐに返事を打ち込み席を立つ。

 どの案件の事だろうとノートパソコンを小脇にブースに向かった桜衣だったが、一歩入った所で思わず足が固まってしまった。
 
 佐野の横に陽真が座っていたのだ。

 今日の彼はスーツでは無く、白いVカットソーの上に薄いブルーグレーのカジュアル素材のテーラードジャケットを羽織り黒の細身のパンツを履いている。
 嫌味なほどに好感度の高いオフィスカジュアルといった服装だ。

 客先に行くときはスーツにネクタイだが、内勤の時は特にドレスコードは無い。割と皆自由な服装をしている。
 現に桜衣もチャコールグレーのドルマンニットとオフホワイトの細身のアンクルパンツにローヒール、一応アクセサリーに細身のシルバーのロングネックレスという動きやすい内勤スタイルだ。
 彼は爽やかな笑みを浮かべて座っている。
 
 なんだろう……嫌な予感しかしない。

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