完璧な彼が初恋の彼女を手に入れる5つの条件
『じゃあ、後は若いふたりでよろしく~』と見合いの席のような言葉を残し佐野はそそくさとミーティングブースを出て行った。
まったく無責任な上司だ。普通事前に本人に確認すべきだろうに。
「……どういう事?」
陽真とふたりになった途端、桜衣は声を低くして言う。
「佐野さんが言ってたじゃないか、上からの話だって」
「結城、まさか、裏工作的な事したわけじゃないわよね」
「うん?」
――うん?じゃないわよ。
陽真は悪びれる様子も無い。
とぼけてるな、と桜衣は眉間に皺を寄せる。
だが、部長職とは言え、入社数日の彼が上の人間を動かせるものだろうか。
「海営部長として入社したのに、急いで法人営業部の現場を知る必要がある?まずは本職を全うすべきじゃない?」
「さすがだね。言うことに筋が通っているのは昔と変わらない」
こちらは気分を害しているのになぜそんなに楽しそうなんだ。
「当たり前の事を言っただけですけど」
「さっき言ったように、お互いにメリットは大きと思うよ。俺としては海営の仕事が忙しくなる前に国内の現場を知りたいっていうのは本当。日本では深刻な人手不足の打開策として、職場環境改善に力を入れている企業が多いだろ。オランダに行ってる間にどの程度変わったか、確認しておきたい。数字でわかる部分ももちろんあるけど、やっぱり現場に行ったり、客先の声を聞いて感じたい」
――なるほど、彼は海外営業だとか法人営業だとかに関わらず、会社全体のビジョンを見据えているのかもしれない。
現場を見たいという気持ちは素晴らしい。客観的にはそう思う。
「でも、なにも私を付き合わさなくても……」
「君のお荷物にはならないつもりだよ。もちろん実務でこき使ってもらっていいし、海外の事情なり、建築屋の観点からのアプローチでアドバイスする事が出来る。出し惜しみしないから、俺が役に立つことがあれば何でも吸収して欲しい。桜衣に搾り取られるなら本望だし」
「……言い方」
何だか会話の方向性がおかしくなってきた。すると彼はスッと目を細める。
「桜衣との接点が無くて焦ってたし。どうも君は上手く俺から逃げ回ってくれてるみたいだから」
「……逃げ回るなんて」
陽真は内心バレてたと焦る桜衣の肩をポンと叩き、斜め前に座りなおす。
「さぁ、張り切って仕事しよう!とりあえずスケジュールだけ擦り合わせようか」
とノートパソコンを開いた。