完璧な彼が初恋の彼女を手に入れる5つの条件
結婚相手に求める条件 ー その1

 翌日から陽真は桜衣と行動を共にするようになった。

 海外営業部の仕事もありつつなので、一日中付きっきりではないもののかなりの時間、一緒に業務を行っている。

 『上から来た話』には抗えない。加えて一級建築士の資格を持ち、知識量も豊富な彼と仕事をするのは自分にもメリットがあると思ったのだ。

(海営女子からの視線が痛いんだけどね……)
 
 欧州帰りのハイスペックイケメン部長。しかも独身。当然ながら海営の女性陣は色めき立っていて早速陽真にアプローチしようとそこかしこで狙っていたらしい。
 『海営姉さんたちの化粧がこれまでより濃くなってます』と未来が言っていた。
 それを他部署の桜衣が掻っ攫った形で行動を共にしているのだから面白くは無いだろう。
 昨日も海営の先輩社員に
「倉橋さんも偉くなったものねぇ。部長を見習いに従えてるんだから」
 と嫌味を言われた。

(いやいや、こっちも望んでこの状況になってるわけじゃないから!)

 しかも、仲間のはずの法人営業部のメンバーの態度も冷たい気がする。
桜衣だけの時の態度はいつも通りでに仕事の相談もするし、世話話もするのだが、陽真と一緒に居るとどうも遠巻きにされてしまう。

(あー、これだからイケメンと関わるのは嫌なのよね)

 ただ一緒にいるだけでめんどくさいことになるのだ。

 とは言え、彼との仕事自体は物凄くやり易い。
 桜衣が抱えている案件は説明しなくて自ら調べて事前に把握していたし、こき使ってやろうと雑務を頼んでも短時間で終わせてしまう。

 パソコンスキルも高く、集計作業も関数やマクロを駆使して自分であっという間に作ってしまう。
 プレゼン資料を作らせてもそのセンスは卓越していた。こういうものは作っている内に独りよがりのものに走りがちだが、彼の資料は徹底的に客観的かつシンプルでとてもわかりやすい。
『前職でも前々職でも死ぬほど作ってたから』と言っていただけある。

 得意先に連れて行くと、陽真はさらに本領を発揮した。

 その洗練された見た目を最大限に利用して相手の心を掴む。
 特にこれは先方が女性担当者だった場合にテキメンだった。
 ちょっと近寄りがたいくらい端正な顔なのに、受け答えは柔らかく誠実さを感じさせ、安心感があり、ギャップにやられるようだ。
 
 当初、イケメンは得よね……と思ったがそれだけでは無かった。
 豊富な知識量に裏付けられた適切なアドバイス。よく入社すぐにこれだけの情報が頭に入ったものだと驚かされた。

 でしゃばる事無く、桜衣を上手くフォローしながら時には砕けた雰囲気で相手の懐に入っていく。
 彼を連れていく事により、受注量が増えた現場も多かった。

 桜衣に欧州の最新のオフィス環境について事細かに説明してくれたし、各国を渡り歩き見て回った建築物の話もしてくれた。

「ミラノのドゥオモは何回行っても素晴らしいんだよな、ガッレリアとか含めて街全体が歴史の重厚感を持ってて凄いと思う。あの圧倒的な存在感を桜衣にも感じてもらいたいよ」

 熱っぽく語る姿を見て、そういえば彼がヨーロッパの建築物が好きで写真集を見せて貰った
事があった事を思い出した。
 桜衣もただ話を聞くだけでなく、時に自分の意見を主張し議論することもあった。

 そんな毎日の中で、陽真が桜衣に特段おかしなアプローチをしてくる事も無い。
 ただ業務を堅実かつ戦略的にこなしていく。
 その過程も勉強になり、いつしか桜衣は彼と仕事をするのが楽しく感じるようになっていた。
 
 彼の言った『ゲーム』の事も忘れかけていた。

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