完璧な彼が初恋の彼女を手に入れる5つの条件
「こんにちは。本日はよろしくお願いいたします」
この日も得意先である大手計測機器メーカーの入るビルにふたりでやって来ていた。
出迎えてくれた担当の女性が早速現場である休憩コーナーに案内してくれる。
彼女とは今まで何回か打ち合わせをしているが、陽真とは初顔合わせとなる。
「安藤さん、よろしくお願いいたします。こちら、結城です。本日から、私と一緒に進めさせて頂きます」
「INOSEの結城と申します。よろしくお願いします」
「Hanontecの安藤と申します。こちらこそよろしくお願いいたします」
彼女の他にも2名ほど若い社員が同席しており、名刺を交換の後、具体的な話に入る。
今回の休憩スペースのリニューアルは社内の若手で作られたPTで進めているらしく、プロジェクトリーダーを務めている安藤という女性社員も20代中頃かと思われる。
既存意識に捕らわれない働き方を進めようと言う会社側の狙いが感じられる。
今後もオフィス環境の改善を検討しているらしく、桜衣としては今回のことを足掛かりにしていきたいと気合が入っている現場だ。
「本日は、実際にどのような什器を入れるかの確認をさせて頂ければと――」
桜衣は話を進める。今はベンチやテーブルなどがスペースを埋めるように並べられ、周囲との目隠しに観葉植物が並んでいるだけだが、充分な広さはある。
一部窓に面しているのでそれなりに明るい空間だ。
桜衣が提案したのは、全体的に落ち着くような、木のイメナチュラルなイメージ。
休憩メインなので明るすぎないように配慮した。
4人掛けのテーブル席と、ソロスペースをいくつか設けており、それぞれがさりげなくパーテーションで区切られている。
窓に面するスペースをどうしようか悩んだのだが、一段高いステージのようにして、柔らかい人工芝のような床材を貼る事にした。
ローテーブルをいくつか置いてそこに靴を脱いで寛げるようにする。
ほぼこのプランで決まっており、
実際に設置するテーブルなどの什器類はINOSEの既製品だ。
イメージをカタログで説明し、一区切りついた所で窓辺を見ていた陽真が口を開いた。
「……窓の周りのスペースですが、変更の余地はありますでしょうか」
「えっ?」
いきなりの発言に桜衣は驚く。
「今のデザインも決して悪くないのですが、フラットな場所で座るより、低くても段に腰掛ける方が逆にくつろげるのではと思いまして。特に女性はフラットな場所で足を投げ出すことに抵抗がありますよね」
すると陽真は流れるようにマウス操作し始め、瞬く間にノートパソコン上でイメージを作り上げる。
「基本的には今のイメージですがフラットではなく、2段の畝を作るイメージで、窓の方を向くように囲んだらいいかと。皆さん自由に畝に腰掛けるイメージです。もちろん靴を脱いで。このあたりだとちょうとビルの間に向こうの景色が見えて開放感もありますし屋上で景色をぼんやり眺めているような感覚もあってリフレッシュできるのではないでしょうか。それにここのシンボル的な存在になる」
陽真がノートパソコン描かれたイメージを見せると感嘆の声が上がる。
「確かにこれなら靴を脱いでも足を投げ出すわけでもないので、気にならないですね」
「窓の方を向いても良いし、反対側を向いて座る事も出来るから良いし、デザイン性もある」
メモを片手に真剣に話を聞いていた安藤は桜衣を見る。
「是非、こちらのパターンでも検討をしてみたいと思います。ただ、もし変更した場合、スケジュールや見積価格に変更が出ると思うのですが」
「……そうですね。今、出させてもらっているものとの差はかなり出るかと思います」
桜衣が答えると陽真が後を引き継ぐように言う。
「こちらの案も早急に作成して、正式なデザインと共にお見積もりを提出させていただきます」
「そうして戴けますか。提出いただけるのは……」
「一両日中にでもご連絡させていただきます」
陽真はサラリと答える。その変更を入れたら、多少全体のレイアウトもいじる必要がある。
恐らく特注になるであろう「畝」の造作の金額も出さなければならない。
時間的に大丈夫だろうか。不安になる桜衣の横で陽真は余裕の表情だ。
「承知しました。ではこちらも、そのタイミングに合わせてPT内で打ち合わせをして最終決定をご連絡します」
安藤は事務的に答える。
若くて可愛いのだが真面目そうな見た目の印象通り、彼女はとても仕事の出来る女性のようだ。余計な事はあまり言わず的確な質問だけをしてくる。
こういうタイプは話が早くて仕事がやりやすい。