完璧な彼が初恋の彼女を手に入れる5つの条件

「で、結局の所、ふたりは付き合っちゃったりしてるわけですか?」

 未来は興味深々といった顔で聞いてくる。

「……未来ちゃんたら、なにを言いだしているのかしら?」

「仕事も息ぴったりだし、何だかふたりの間に他人が入れないような雰囲気を感じるんですよね。何より美男美女でお似合いだし、」

「そんな事ないわよ。ずっと一緒に行動しているからそう見えるだけじゃない?」

「え~?そうかなぁ。結城さんは明らかに桜衣さんに接触しようとする男性陣、牽制している気がするけどなぁ。最近桜衣さん男の人からアプローチされてる様子ないし、結城さんが睨みを利かせてるお陰じゃないですか?」

「……」

 言われてみると、最近取引先の男性の誘いが無くなっている。
 陽真が何かと一緒にいるせいだろうか。別に牽制してる様子はない気がするが。

「あの、こんな事言ったら怒られちゃうのかも知れないけど、桜衣さんってしっかりしてるからみんなに頼られてるけど、逆に桜衣さんが誰かに頼ったりするイメージが無くて、それが結城さんに対しては桜衣さんも心許してる感じがするんですよね。壁がないというか」

 未来はちょっと羨ましいんです、と笑う。

「……壁かぁ」

 桜衣は苦笑する。

――この子、よく見ている。

 基本的に自分がしっかりせざるを得ない環境で育ったためか、自分で何とかする癖がついている。
 ただ、それは無理をしている訳でもないのだ。

 頼られる事で自分の存在価値を感じているのかも知れない。そういう面が逆に壁があるように見えるのだろう。

 しかし、陽真に関しては旧友でもあり、再会当日にプロポーズという暴挙に出られた為、驚いている間にその壁を作る機会を失ってしまった。

(……結婚したいって言ってたの、本気なのかな)

 陽真は再会後、そして最近は特に桜衣への好意を隠そうとしていない。

 ただ、明確に「好きだ」と言葉にされた事は無い。

 彼は結婚願望が強いと言っていたけどそれは方便で、たまたま帰国したタイミングで桜衣と再会し、旧友の気安さも手伝って、『ゲーム』を楽しんでみているだけだと思っている。

 そもそも、陽真がクリアできているかどうかジャッジするだけ、桜衣が自ら何かクリアする訳では無いのだのだ。それはゲームと言えるのだろうか。
 
 彼が何を考えているのか、わからない。

(……イケメンのアプローチほど信用できないものは無いんだから)
 
 学生時代に自分に告白して来た相手だって結局、お高く止まってるとか可愛げがないとか、裏では言ってたでは無いか。
 それを聞いてもいないのに、女子からわざとらしく聞かされた時の気分の悪さったら。

『桜衣ちゃんもいつかお母さんみたいに大事な人に巡り会えるわよ』

 母がよく言っていた言葉。桜衣にとっては呪いの言葉だ。
 
 母の言う「大事な人」はその都度変わっていたようだが、幸せになっていたとは思えない。
 結局お互いだったり、どちらかだったり気持ちは離れていくのだ。

 人の心は変わりやすい事は嫌なほど見て来た。
 陽真もそろそろ桜衣の可愛げの無さに呆れているのでは無いか。

 また自分の考えに気を取られていると、未来がビールジョッキ片手に、にんまり笑ってこちらを見ている事に気付く。

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