完璧な彼が初恋の彼女を手に入れる5つの条件
結婚相手に求める条件 ー その3
「眉間に皺が寄ってる、少し息抜きしたら?」
長身をソロブースの壁にかぶせるよう身を乗り出してきた陽真に眉間をコツンと小突かれ、桜衣は意識をパソコン画面から目の前に現れた秀麗な顔に移す。
「悪かったわね。シワで。誰かさんの講演会の準備のお陰で追い込まれてるのよ」
予想していた通り通常業務に講演会準備も加わった桜衣は、今日も残業して招待者のリスト作り中だ。
既に定時はとっくに過ぎていて、周りに残っている社員はいない。
「悪いな、副社長の勧めって言っても実質命令で断る余地が無かったし。強引だよな、ウチの副社長も」
「でも、講演会自体はいいイベントだし、時間が無くてもしっかり後に繋げられるものにしたいのよ」
いい加減に出来ない性分なのか、こうして何かと根を詰めてしまう。
「まあ、俺的には桜衣の疲れた顔も憂いがあっていい。あぁ、でもあんまり色気を出し過ぎると他の男の眼が君に注がれて面白くないな」
「……疲れのせいかしら、結城がまた訳の分からないことを言い出しているような気がする」
「そんなお疲れの桜衣をリフレッシュに誘いたいんだけど、週末時間あるか?」
「……えーっと」
陽真からの誘いに思わず困惑した反応をしてしまう。
週末くらい、自分のペースで家でのんびりすごしたいのだ。
平日碌に出来ない掃除や家事もしたい。
それに、ただでさえ最近は陽真と一緒に居る時間が長いのに、これ以上一緒に行動するのはまずい気がした。
「週末位寝坊したいし、ゆっくりしたいのよね」
「なるほど、週末ゆっくりしたい、と言う事は大した予定が無いってことだよな?じゃ、土曜日に出かけよう。日曜に寝坊すればいい」
「え、なんでそうなるの?」
「見せたいものがあるんだ」
「でも……」
「桜衣――ダメ、かな?」
彼は形の良い眉を下げて困ったような顔をする。
「……まあ、土曜なら、いいけど……」
なんというか、いつもこの『ダメかな?』を断れない自分がいる。
普段は大人の男の色気すら漂わせている彼が途端に困った少年見えて、可哀そうになってしまうのだ。
そう言えば、中学の時もこの顔に絆され、生徒会室で仕事の手伝いをさせられていた気がする。
彼は途端に破顔する。
「ありがとう。土曜は天気も良いみたいだし。詳しいことはまた連絡するけど、当日は歩きやすい格好で来て。靴はスニーカーでな」
「……わかった」
これこそ彼のペースに流されてるんじゃないかという心の声は聞こえない事にした。