完璧な彼が初恋の彼女を手に入れる5つの条件
そして迎えた土曜日の朝。
どこに行くか知らないが、お出かけ日和の良い天気である。
桜衣が指定された自宅近くのコンビニの駐車場で待っていると、黒いSUV車が静かに駐車場に入って来る。
随分オシャレなデザインの車だなーと見ていると、運転席から降りて来たのは陽真だった。
「桜衣、おはよう。そういうスポーティな格好も似合うな」
と、顔を綻ばせながらスマートに助手席のドアを開けてくれる。
桜衣はシンプルだ肌ざわりがいいホワイトのオーバーサイズTシャツに、スキニーのジーンズを合わせて、グレーの薄手のパーカーを羽織っている。
味も素っ気も無い格好だが動きやすい服装といったらこれしか思いつかなかったのだ。
「おはよ、結城こそ……似合ってるわよ」
彼はVネックのTシャツにブラックののチノパン、ネイビーのシャツを羽織っている。同じくカジュアルでシンプルだが、着る人が長身でスタイルが良いのでモデルがサラリと着こなしているようにしか見えない。
桜衣を助手席に乗せて静かに車は走り出す。
(……何だか、妙に緊張しちゃうんだけど)
仕事で陽真の運転する車には何回も乗った事があるし、ふたりだけで行動する事も多い。
でも、こうして完全にプライベートな彼の顔を見るのは初めてだからか、やけにリラックスしている様子が新鮮でキラキラして見えてしまう。
ハンドルを握る陽真を改めて盗み見すると、折ったシャツの袖口から見える骨ばった手首に男っぽさを感じてしまう。
「えっと、結城、こんないい車持ってたのね」
桜衣は慌てて視線をフロントガラスに戻す。
陽真の運転はいつも上手いと思っているが、車の性能も良いのだろう。
社有車より随分と乗り心地が良い。
「これ、兄貴から譲ってもらったんだ、丁度そろそろ買い換えたいって言ってたから」
「お兄さんってお医者さんの?」
たしか彼の一家は皆医師だった。
「そう。都内の病院で働いてる。結構忙しくて大変みたいだよ」
陽真の兄は彼らの叔父が経営する中規模病院に勤務しながら、病院の経営にも携わっているらしい。
叔父さん家には娘しかいなくて、婿を取らずに結婚して出て行ってしまったから、兄貴が跡取りとして期待されているだよね」
「そうなんだ。結城のお父さんもお医者さんでしょ?」
「親父は根っからの現場主義で、自分で経営するとか興味がないもんだから大学病院の勤務医なんだけどね。心臓のカテーテル手術ではその道の権威らしいよ」
「へぇ……」
たまにテレビで見かけるスーパードクター的な感じなんだろうか。
なんだか世界の違う話だ。
そんな話をしている内に車は郊外に入り、急に緑が豊かになってくる。