完璧な彼が初恋の彼女を手に入れる5つの条件
「で、今日の目的地はどこなの?公園にでも行くのかと思ってたけど」
「公園でも良かったんだけど、せっかくだから登ってみようと思って」
「登る?」
「良かった、駐車場空いてそうだ」
車は多摩にある都内でも有名な山の麓の駐車場に入る。
山の中腹には有名な寺院があり中腹まではケーブルカーやリフトもあるので気軽に登山が楽しめる事で人気の観光地だ。
存在は知っていたが、登山にさして興味が無い桜衣は登った事が無かった。
「まさか登山とは思わなかったわ」
「たまにはいいだろ。オランダには山が無いから、他の国で何回かトレッキングはしたことがあったんだけど、そういえば日本の山って全然登った事が無いなと思って」
「結城は登山が趣味なの?」
「趣味ではないけど、たまに自然に身を置きたくなる」
少し歩いて登山口に到着し、コース案内の大きな立て看板を見上げる。
「どうする?俺は体力あるから自力で登れるけど、ケーブルカーにするか?」
それでは桜衣が体力が無いから登れないと言われているようだ。
「私だって自力で登れるわよ」
つい、ムキになって答えてしまう。
「じゃあ、せっかくだからこの稲荷山コースだな。より自然を満喫できるコースみたいだ」
「いいわよ。自然を存分に満喫してやろうじゃないの」
「OK」
彼が笑いを堪えているように見えるのは気のせいか。
――30分後、桜衣はムキになった事を少々後悔していた。
陽真が選んだコースは迂回しながら山頂を目指すコースで、普通のコースに比べて距離が長いようだ。
ハイキング気分で甘く見ていたのだが、なかなかの急勾配を歩き続けていると体中が重く感じ息切れがしてくる。
社会人になってからもジョギングしていた時期もあったが、ここ数年は仕事が忙しいことを理由に体力作り的な事をしていない。
(自分が思うほど体力が無いって事なのかしら……つら)
対して陽真は疲れた様子はないどころか、軽々と歩いているように見える。
「休憩入れる?」
「だ、大丈夫」
「さすが元陸上部、でも足が重そうだけど?」
引っ張ってあげようか?と笑顔で手を差し出してきたが、返って歩きづらくなるからと断る。
息切れはするものの、山の空気は澄んでいて秋口の落ち着いた色の木々の緑も目に優しく、森に包まれるようだ。
気持ちよさも感じながら一歩ずつ歩みを進めた。