完璧な彼が初恋の彼女を手に入れる5つの条件
登り始めて約一時間後、無事山頂に到着する。
「階段つら……明日筋肉痛になる気しかしない……」
桜衣は太ももをさすりつつ呟く。
「お疲れ、あっちに展望台があるから行ってみよう」
まだ暑さが残る季節だが、山頂は涼しい風が吹いていて清々しい。
達成感も手伝い、開放的な気分になる。
「うーん!なんか気持ちいい。確かにたまにはいいわね、こういうのも」
両腕を広げて伸びをして綺麗な空気を吸い込む。
「だろ」
陽真も気持ちよさそうに深呼吸をする。
遠くの方に富士山を見つける事が出来、ふたりで感嘆の声を上げた。
暫く景色を眺めた後、人の多い広場から離れた木の陰に並んで腰を降ろした。
「ピクニックシートまで持ってきてるなんて、準備がいいのね」
「ただ、飯はどこかの売店で買うか、降りてから蕎麦でも食べようと思って準備してないんだけど、どうする?」
「……あのさ」
桜衣は胸に抱えたリュックをギュッと握る。
「ん?」
「おにぎり、作って来たんだけど……食べる?」
「え、本当?」
今日は公園かどこかに行くのだろうと思っていたので、朝作って持参していた。
小腹がすいたら食べればいいし、無駄にはならないだろうと思ったのだ。
「たまたま塩鮭がいい感じに残ってたから丁度いいと思っただけで、ホントにおにぎりしか作ってないし、味の保証は……」
そう言いつつも、いつも自分で食べる用よりは随分丁寧に握ったのだけど。
「食べる」
即答し、やけに期待に満ちた顔をしている陽真にプレッシャーを感じつつ、桜衣はバンダナで包まれたおにぎりの入った容器とウェットシートを差し出す。
「手はこれで拭いて」
「あぁ、うん」
慌てた様子で手をサッと拭いた陽真はおにぎりをひとつ掴むと「いただきます」と大きな口で頬張る。
「……うまい」
「ただの鮭おにぎりだけど」
「塩気も愛情のこもり方も絶妙。今まで食って来たおにぎりの中で一番うまい」
蕩けるような嬉しそうな顔で言う。愛情云々は置いておくが、本気で美味しいと思ってくれているようだ。
「桜衣の握ってくれたおにぎり食べれるなんて、日本に帰って来て良かった」
「おにぎりひとつでそんなに喜ぶなんて、なんか引く……じゃなくて、良かったわ」
他人の握ったおにぎりに抵抗がある人も多いというし、もしかして嫌がられるのではと思っていたが、美味しいと言って食べて貰えて単純に嬉しい。
自然の中で開放的になったのか、今日の陽真は普段より表情も豊かで「同級生」という感じがしてなんだかくすぐったい気持ちになる。