完璧な彼が初恋の彼女を手に入れる5つの条件
「……え?」
陽真が驚いた顔でこちらを見る。
「正確に言うと病気で亡くなっているらしいの。私の生まれる前に。中学の時、母は父とは違う男性と結婚してたの。その人とも別れて、母も私が高校生の時に亡くなってるからもう詳しいことはわからないんだけど」
「……」
陽真は口を噤む。
父の話はあまり聞いたことが無かったが、恋愛関係になった男性で唯一死別したのが桜衣の父だったらしい。
母から聞いた父の話は、優しい人だった言う事、急な病で倒れてあっと言う間に亡くなってしまった事、近しい身寄りのない人だった言う事くらいだ。
「あと、顔が良かったって言ってたかな?」
桜衣は苦笑する。
「実の父が病気で亡くなったて知ってたから、健康な人が良いって言ったんだと思う」
「……そうか」
それから桜衣は自分の生い立ちをポツポツと話した。
母の交際相手が短いスパンで変わっていたこと、相手が再婚相手以外クズ男ばかりだったこと、いつも気を使っていた事……
自分の身の上話を他人にするなんて初めての事だ。
わざわざ聞かせることでもないのに。
自然がもたらす開放感のせいだろうか、非日常感のせいだろうか。
――それとも相手が陽真だからだろうか。
「中学生の時の義父だけは、まともな人だったから、あの頃は一番平和に暮らせてたし学校生活も楽しかったな」
幸せだった時間に思いを馳せ桜衣は目を細める。
「お母さんが事故で亡くなった時の慰謝料もあったし、叔父さんがサポートしてくれたお陰で大学まで行けたの。でも迷惑掛けちゃいけないから卒業同時に叔父さんの家は出たんだけどね。『しっかりしなきゃ』って生きて来たからかな。可愛さの欠片も無い性格になっちゃった」
まあ、そもそもこの年で可愛いもないか。と肩を竦めて笑う。
「桜衣は変わってないよ」
桜衣の話を静かに聞いていた陽真が口を開く。
「いいわよ、気を使ってもらわないくても」
「俺にとって桜衣は中学の頃から変わってない……もちろん、見た目は成長して綺麗な大人の女性になってて、どうしようかと焦ったけど」
陽真は顔を綻ばせてこちらを見る。
「やっぱり中身は俺が知ってるあの頃のままだったよ。自分の気持ちをしっかり持ってるけど、いつも相手の事を考えて行動している、優しくて思いやりのある女の子だ」
柔らかい眼差しと真っすぐな言葉に思わず顔が熱くなる。
「お、女の子って、私もう28よ」
「なんだろうなぁ、俺にとっては可愛い女の子なんだよね」
陽真は桜衣の頭に手を伸ばすと、茶色がかった髪をゆっくり撫でる。
いつもなら『ちょっと、なにすんの』と拒否するのだか、今は撫でる手の心地よさに身を任せてしまいたくなってしまう。
「少し、意地っ張りで素直になれない所も可愛くてしょうがない」
陽真はいたずらっぽく笑うと、頭を撫でていた手を後頭部に添え、そのまま彼女を自分の胸元に引き寄せる。
「――大変だったんだな。でも、これまでの経験が今の桜衣を作ってるんだとしたら、君が生きて来た道は、間違ってない」
抱き込まれた耳元で小さく、しかしはっきりと言葉が響く。
「……」