完璧な彼が初恋の彼女を手に入れる5つの条件
「桜衣、仕切りよろしくな」
受付開始の時間まであと少しのタイミングで今度は陽真に声を掛けられた。
白いカットソーにネイビーのジャケットを羽織った陽真は敢えてのカジュアルスタイルだ。
堅苦しい講演にするつもりが無いのだろう。
ちなみに桜衣の方はライトグレーのノーカラージャケットとテーパードパンツのスーツスタイルだが、スタンドカラーのブラウスは胸元にレースの切り替えが入っていて、キチンとしながらも女性らしさも出すように意識した。
「承知しました。結城さんもよろしくお願いします――あと、人がいる所で名前で呼ぶのはやめて」
後半は小声で言う。
「今は周りに誰もいないからいいだろ――ていうかイイな、こういうの。人目忍んでる感じが秘密の社内恋愛って感じで」
「本当に緊張感無いようですね」
「してるしてる。桜衣が『陽真、がんばってね』って言ってハグでもしてくれたら一気に緊張が解けるんだけどな」
陽真は高い背をスッと屈めて桜衣の耳元で囁く。
その動作はとても自然だ。
「解ける緊張すら無いくらいリラックスしてるみたいね。さ、そろそろ開場の時間です。お願いしますよ結城部長」
さもスルーしましたという体で踵を返し歩き出す。
「承知しました。倉橋さん」
後ろから聞こえてくる声は明るい。
こういう軽口を叩き合うのも普通になってしまった。
それを楽しく感じている自分に、最近戸惑いを覚えるようになった。