完璧な彼が初恋の彼女を手に入れる5つの条件
ホールは聴講者で一杯となった。
『招待状に登壇者の顔写真入れたのが良かったんでしょうね』と未来が言っていたように普段こういった催しをする時より女性の出席が多い気がした。
進行を務める桜衣は開会の挨拶と自社製品のPRを行った後、陽真に引き継ぐ。
その後は照明を絞った会場の前方の端で目立たないように控えた。
講演の内容はヨーロッパの最新のオフィス事情について。
陽真はオフィスの多様化やIT化を具体例を挙げながら説明し、ヨーロッパのトレンドは数年後に日本に入ってくるから何を取り入れるかアンテナを立てておくことがが重要であること、当然ながら優秀な人材を確保するには、若者の感覚に合ったオフィス作りをしていくとも大切である事など、資料を交え、時にユーモアを織り交ぜながら話した。
オランダにある銀行の入るビルについて語る時、その建物様式についてつい熱く語ってしまい「おっと、つい脱線しましたね」と笑いを誘う場面があった。
(ホントに建築が好きなんだよね)
彼は昔から建築が好きだったし、最初の就職先は建築デザイン会社だ。
オランダでもその道に携わっていたのに、何故日本に帰って来てオフィス家具の分野の仕事をしようと思ったのだろうか。
もちろん、空間デザインもするので建築士の資格が必要となる場面も多い。しかし、彼ほどの知識や経験、加えて才能があれば、建築の世界でも十分通用するはずだ。
背筋をすっと伸ばして落ち着いて話す陽真の立ち姿を少し離れた所で見ていると、中学生だった彼の凛とした剣道着姿と重なった。
彼が今自信に満ち溢れて見えるのは、これまでの努力の積み重ねがあったからだ。
INOSEに入社してからも、業務に関わる専門的な知識を身に着けるため勉強していることを桜衣は知っている。
事も無げにこなしているように見えて、実は誠実な努力は怠らない。
結城陽真はそういう人なんだろう。
中学の時、彼の事を『生まれながらに恵まれた環境を持っているだけ』と、勝手にいけ好かない奴だと思っていた事もあった。
でも、あの時も彼は裏で「きちんと」努力していたのだろう。今ならわかる。
その頃の彼に申し訳ない気持ちになった。