完璧な彼が初恋の彼女を手に入れる5つの条件

 講演後は隣の部屋にネットワーキングのコーナーを設けて、来場いただいた方にコーヒーや菓子類などを振舞う。

 自由に歓談してもらっている間に、営業は自分の顧客に挨拶をしてまわる。
 桜衣と陽真も担当している顧客がいれば声を掛けて回った。


「安藤さん、来てくださったんですね。ありがとうございます」

 桜衣と陽真がリフレッシュコーナーを手掛けたHanontecの担当者の安藤も来てくれていた。

 彼女は今日は上司を連れて来ていた。早速名刺交換をする。

「ハノンテックの羽野です」

 笑顔で名刺を差し出したのは細身のスーツをすっきりと着こなした、背が高く物腰の柔らかい30歳くらいの男性だ。

(羽野さんというと……もしかして)

 Hanontecの創業一族の姓は羽野で、目の前の人物は次期社長の年の頃と一致する。

 名刺を見ると『経営統括部長 羽野奏汰』と書かれている。間違いない。

 この優し気な面差しでやり手で有名な御曹司。少々緊張感が増す。

「INOSEさんの手掛けてくれたウチのリフレッシュスペースがとても好評でしてね」

 特に窓際に作ったあのスペースは人気で、部署間のコミュニケーションも頻繁になっており、会社にも良い影響をもたらしてきていると言う。

「それは、ありがとうございます。安藤さんの的確な判断でこちらも随分助けて頂きました」

 陽真の言葉に桜衣も続ける。

「事前に色々と調整してして頂いて、お客様相手にこんな言い方したら失礼なのかも知れないのですが無駄が無く……とても仕事がやり易く、良いものを作らせて頂いたと思います」

「いえ、私は何も……」

 安藤がとんでもないと言う顔で恐縮する。

「そうですが、上司の僕が言うのもなんですが、彼女は優秀ですからね――今日の講演も大変興味深かったです。ウチも優秀な人材を確保するためにますますオフィスの環境改善を進めなければいけないと思っています。その際はまたINOSEさんに声を掛けさせてもらいますね」

「ありがとうございます。是非お願いします」

 部下を褒められて嬉しいのか、甘めの顔にさらに笑みを深めた彼は上機嫌に見える。

 すると話の輪に加わって来た人物がいた。

「羽野。よく来てくれたな」

 副社長だ。親し気な態度に羽野も笑顔のまま答える。

「先輩」

「副社長と羽野さんはお知り合いなんですか?」

「羽野とは大学が一緒でね」

 聞けば羽野は副社長の大学の後輩で、昔から個人的な交流があるらしい。

「しかし今日は大口のお得意様として、丁重に対応させて頂かないといけないのかな」

「副社長、Hanontecさんが、自社ビルを建てた際はウチにお声かけ頂くよう取り計らいお願いしますよ」

 副社長が砕けた様子で言うと、陽真がすかさず営業スマイルで追従する。

「はは……そうですね、いずれ自社ビルも考えてはいます」

 羽野が爽やかな笑みを浮かべて答える。

 副社長、陽真、羽野

 タイプが違う極上イケメン3人が揃った時の存在感たるや凄まじい。

 ただ立ち話をしているだけなのになんだろう……この場だけ異空間が広がっている気がするし、周囲からの眩しいものを見るような視線がすごい。

「……」

 そのキラキラした空間に居たたまれなくなり、流石の桜衣も一歩後ずさりしてしまう。

 気付くと安藤も顔を強張らせながら距離を取ろうとしている。

 目が合った女子ふたりはお互いに苦笑した。

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