完璧な彼が初恋の彼女を手に入れる5つの条件
「はぁ、流石に今のは精神的に疲れたわ」
謎のイケメン集会が散会した後、陽真と2人なったタイミングで桜衣は溜息を付く。
「え、何がだよ?」
「何でもない……今日はお疲れ様。講演、良かったと思う」
「そうだな、こういう活動も大事だな。色々手伝ってくれてありがとう。君のお陰で上手く行ったよ」
陽真は桜衣を真っすぐ見て目を細めて笑う。
「……仕事ですから」
この笑顔にいちいち胸が高鳴る。やはり最近どうもおかしい。
その後も招待客に挨拶をしていき、ネットワーキングの時間が終わったタイミングで未来たちにも声を掛けに行く。
「みんな、今日はありがとね」
「いえいえ、無事終わって良かったです」
若手たちは一様にホッとした雰囲気を出している。
「せっかくだから、片づけが終わったら今日は皆で打ち上げに行こう。俺が奢るよ」
「えっ本当っスか?」
陽真が言うと男性社員達が色めき立つ
「あっ、それなんですけど……」
未来が何か言いかけたタイミングで背後から女性の声が聞こえた。
「陽くん!」
(「はるくん」?)
声の方を見ると若い女性が陽真に駆け寄って来ていた。
「史緒里、来てたのか?社長しかいなかった気がしたけど」
「陽くんに会いたくて後から来ちゃった。さっきまで副社長さんとお話ししてたの」
女性は驚いた顔をした陽真にぶら下がりそうな勢いで密着している。
肩まである髪をふわりとさせ、アイボリーのヒラヒラとしたワンピースを着た彼女は顔立ちも華やかで、弾けるような若さと美しさを併せ持っている。
彼女はポカンとしているその場の面々に自ら挨拶をする。
「精向社で秘書をしております向井史緒里と申します。今日は社長の付き添いで伺いました」
向精社と言えば、ビル建築から商業施設、テーマパークのデザインまで幅広く空間をデザインする建築の一流企業だ。そして陽真が大学を出て最初に就職した会社でもある。
その縁なのか、最近陽真は時間を作っては精向社に赴いているようだ。
「副社長と?」
やんわりと彼女を遠ざけながら陽真が怪訝な顔で言う。
「陽くん、もうお仕事終わりでしょ、この後史緒里に付き合ってくれる?」
「いや、この後は……」
陽真が何故か桜衣に視線を寄越す。
「え……」
桜衣が言葉に詰まっていると代わりに未来が口を開く。
「この後は、全員参加の反省会をするように副社長から言い遣っておりますが?」
いつの間にか、未来は副社長から反省会と称した打ち上げ資金を預かったらしい。
「そういう事みたいだ。悪いな」
陽真は断るが、史緒里も引かない。
「その会もすぐ始まる訳じゃないでしょ?ちょっとくらい良いじゃない。パパも『例の件』で話がしたいって」
甘えて食い下がる史緒里に、陽真は仕方が無いな、と苦笑する。
その気を許したような表情を見て、桜衣は胸の奥がギシリと軋むのを感じた。
「わかったよ。少しだけな……倉橋さん、反省会は後から合流するから、先に行ってて貰っていいか?」
「……わかりました、後ほど場所をご連絡します」
「悪いな」
「すみませんね、皆さん。では失礼します」
史緒里は可愛らしく肩をすぼめてから「はるくん、行こう」と陽真の腕に手を掛けるようにしてその場から連れ出す。
去り際、彼女はチラリと桜衣に視線をよこし……それが、品定めするようなものだったのは、気のせいだろうか。
「……」
ふたりが寄り添って歩く後姿を桜衣はただぼんやりと見送った。