完璧な彼が初恋の彼女を手に入れる5つの条件
行かせたくない

「あれ、全然『すみません』なんて思って無いですね」

 講演会会場から一度職場に戻り、軽く残務を片付けてから未来とふたりで『反省会』の会場である飲み屋に向かっている最中だ。

 隣を歩く未来は面白くなさそうに話す。

「向井史緒里、23歳。大学を出てすぐに父親が社長を務める精向社者の秘書。秘書って言っても仕事はメインの秘書が別にいて、その補助しているらしいですよ。社長が結城さんの親戚と知り合いで昔から交流があるとか……お気楽お嬢様ってとこですかね」

「その言い方、やっかみになっちゃうから……ってゆうか、未来ちゃんの情報の速さにビックリなんだんけど」

「絶対父親に甘やかされて我ががまに育ってますよ。さっきも私たちが集まっている時を見計らってやって来て結城さんに甘えて見せて。あれ、絶対ワザとですよ」

 桜衣の疑問はスルーして未来は忌々しそうな顔をする。かわいい顔が台無しだ。

「精向の社長は経営手腕はあるらしいけど、きっと娘には甘くて私情を持ち込む親としてはダメなタイプです」

 未来の話を聞くにつけ史緒里は自分とは真逆のタイプだなと思う。

 経済力がある親の愛情と期待を受け育ち、多少の我儘も許される素直で甘え上手な可愛らしい女性。

「でも、あぁゆうタイプの子が男性は好きでしょう?」

「あぁゆうタイプが好きな男性は私は好きになれないですけどね。桜衣さん、気にする事無いですから。あんなのちょっと若くてあざと可愛いだけじゃないですか」

「そうねぇ、若くて可愛くて親が一流企業の社長なだけだからね。でも、そもそも私が気にする理由はないわよ?」

――と、言ったものの、正直に言うと気になってしまっている。

 史緒里の陽真に対する馴れ馴れしさも引っかかったが、それよりも陽真が彼女に気を許した表情をしたのが不思議なほどショックだったのだ。
 
 彼女は陽真にとって特別な存在のような気がして。

(私、自分にだけあの表情をして欲しいと思ってるのかもしれない……)

「桜衣さん?」

「ごめんごめん、さ、美味しいお酒が待ってるから、さっさと行きましょ」

 危険な思いを振り払うように、先を急ぐことにした。

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