完璧な彼が初恋の彼女を手に入れる5つの条件
なんだろう。
陽真の顔を見ただけなのに、さっき従弟と話して感じた気持ちとは別の心の高ぶりを感じる。
飲んでいる間中、ずっと彼の事を考えてしまっていたからだろうか。
酔いも回ってきたのか、頭がぼんやりする。
「結城、今着いたの?お疲れ様――って、どうしたの」
「――あぁ、お疲れ……電話、してたんだな」
陽真の様子もおかしい気がする。表情も声も堅い。
よっぽど、疲れたのだろうか……それとも、精向社令嬢との話で何かあったのだろうか。
彼女の存在を思い出し胸がチクリと痛む。
「……来週末、電話の相手の所に行くのか?」
何故か、戸惑ったような聞き方だ。
「ん?そうね、しばらく行けてなかったから」
電話の内容が聞こえていたのかと思い、フワフワとした思考のまま答えてしまった。
「しばらくって……どういうことだ?」
陽真の声が一層低くなる。
普段の桜衣ならこのあたりで会話の不自然さに気付いていたのかもしれないが、この時はアルコールで判断能力が鈍っていた。
「昔の男とヨリを……戻したのか」
呟きはハッキリとは聞き取れないが、声が堅い事だけはわかる。
「結城?みんな待ってるよ。行かないと」
席を外してからしばらくたってしまったので、そろそろ戻らなけばと声を掛ける。
「……行かせたくない」
低い声のまま言うと、陽真は桜衣に近づき行く手を遮るように立つ。
「結城?」
いったい彼はどうしてしまったのだろう。戻らなければ心配して誰かが探しにくる。
こんな物陰でふたりきりでいるのを、しかもこんなに至近距離で立っているの見られたらまずいだろう。
何より陽真の切羽詰まった様子に不安を覚え、無性にこの状況から逃げたくなってくる。
「な、何言ってんの、もう行くから!」
陽真の横を突破しようと一歩踏み出す。
しかし――
「あっ」
腕を捉まれ、引き寄せられたと思うと長身が覆いかぶさって来た。