完璧な彼が初恋の彼女を手に入れる5つの条件
初恋の呪縛 ― 陽真
(…………これは、ダメだ)
陽真は心の中で頭を抱える。
まだ彼女を抱きしめた時の感覚が残っている。
想像していたより華奢で柔らかくて、何とも言えない良い香りがして……
(俺は中学生のガキか)
店に着いた時、彼女が電話しているのを盗み聞きするつもりは無かったのだが、耳に入って来た内容に驚いて思わず足が止まってしまった。
『泊まりに行く』とか、『私も会いたい』とか。
相手の事を『りょうくん』と呼んでいたから、完全に昔の男とヨリを戻したと思い、焦ってつい取り乱して――。
結局、彼女の小5の従弟に嫉妬してたという顛末。
情けない自分を繕うように、飲み会の席に着くと早速ビールを飲み始めた。
一方、桜衣の方だがいつもと様子が違う。あんな彼女は初めて見る。
普段より、表情が豊かで後輩たちの話を聞いてはニコニコと笑っている。
「そうなんだぁ。そんな一流の人がデザインしたスツールを専属輸入できるとこまで話を進めるなんてすごいじゃない。さすが海営のホープの新田くんね」
桃色に上気した頬、潤んだ瞳でじっと話を聞いては柔らかい口調で受け答えている。
高嶺の花、クールビューティのイメージの強い彼女のそんな様子に後輩たちの顔色が変わっている。
新田と呼ばれた若手社員も
「いいえっ、それも結城さんから切っ掛けをいただいたので」と赤くなりながら恐縮している。
そして明らかにこちらを気にしている。
確かに海営のプロジェクトの一環として彼ら若手を中心としたPTを作って、自分のオランダでの人脈を使ってもらった。
「それでも実際に詳細を詰めていくのは新田君たちでしょ。海外とのやりとりは特殊で難しいところも多いのをがんばったのよね?偉いと思うわ」
と、少し首を傾げながらゆったりと微笑む彼女。
「……っ」
その表情はその場に居た全員が息を飲むほど清艶で……
(おい、ダメだろう!そんな顔こいつらに惜しげもなくみせたら)
俺だって初めて見るのに。
陽真は本当に頭を抱えたくなる。
かといって強引に彼女を連れて出る訳にも行かず、じりじりした気持ちを押さえながらとにかく飲み続けた。
「……桜衣さん、今、3杯目なんですよ」
しばらくすると隣に座った園田未来がさりげなく耳打ちしてきた。
「普段、叔父さんに外では1杯だけ、2杯目以降は禁止されているらしいんですけど、納得ですね。あんな無防備に笑う桜衣さん初めて見ます」
「……なるほどね」
今まで自分と飲みに行くときも飲まなかったり、飲んでも1杯だけだった。
勧めても飲まなかったのは止められていたからだったのか。
彼女の叔父の判断は大正解だ。
飲み会に行く度にこんな姿を見せるようなら、今以上に彼女の周りに男がたかって危険だろう。
素面になったら一度自分からも釘をさす事にしよう。
「――園田さん、もうそろそろお開きの時間かな?」
陽真は飲み干したハイボールのジョッキをやや乱暴に置いた。