完璧な彼が初恋の彼女を手に入れる5つの条件
少々早めにお開きになったため、飲み足りない後輩たちに2次会に誘われたが、陽真は明日朝から纏めなければいけない案件があるからと言って断る。
「倉橋さんと園田さんも、もう帰った方がいい」と言うと、ふたりとも素直にそうすると言った。
女性陣が参加しない事に明らかに落胆する後輩たちには飲み代を渡してさっさと送り出す。
名残惜しそうにする彼らを見送った後、桜衣を見ると……まだ上機嫌だ。
「ねぇねぇ、未来ちゃん、ふたりでコーヒーでも飲んでく?」
「えっと……とても行きたいですけど、今日はもう帰りますね。桜衣さんも早く帰った方がいいですよ」
「駄目?まだ未来ちゃんと一緒に居たいのに」
桜衣は未来の二の腕に抱き着くようにして言う。
「うっ……桜衣さんのそのセリフは一生一緒に居たくなるやつです……でも、言う相手を間違えていると思いますよ?」
「え~」
未来は残念そうな桜衣の後ろで仏頂面をしている陽真を視線を移す。
「私はタクシーで帰りますんで、桜衣さんの事よろしくお願いしますね」
「了解」
可愛らしくニコリとする未来に陽真も表情を和らげて答える。
当初は他のメンバー同様『桜衣さんを取られた』という雰囲気を隠さない彼女だったが、どうやら協力者になってくれたようだ。
「さ、俺たちも帰ろう」
タクシーに乗った未来を見送った陽真は桜衣の手を取ってそのままタクシーを待つ。
手を握られても今の桜衣は気にしていないようだ。
「今日の君は危なっかしいから送ってく」
「家まで?タクシー代高くなっちゃうよ」
「今日は俺たち頑張ったんだからそのくらい副社長に払ってもらうさ」
タクシーに乗り込むと桜衣は気怠そうにシートにもたれる。
「大丈夫か?」
運転手に行き先を告げた陽真は心配気に声を掛けた。
「うん、大丈夫」
そう言いつつも桜衣の目は明らかにトロンとしてきている。
「酔ってるんだから、少し寝たらいい」
「……平気だって」
こんな時も何で俺には意地を張るんだと、歯がゆく感じる。
陽真は腕を伸ばして桜衣の頭を強引に自分の肩に引き寄せ、もたれさせる。
「はい、家に着いたら起こしてやるから、安心して寝ていい」
茶色かかった艶やかな髪に唇を寄せながら囁く。
「……ん」
眠気に負けたのか、今度は素直な返事だ。
すぐに彼女は長い睫毛を伏せ目を閉じた。
左肩に心地よい重みを感じながら陽真は溜息を付いた。
まったく本当に今日の自分は余裕がない。
「……いや、余裕なんて最初からなかったかもしれないな」