完璧な彼が初恋の彼女を手に入れる5つの条件
これでは、結婚も出来ない。
彼女にちゃんと告白出来なかったのがいけなかったのだろうか。
想いを果たせなかった分、思い出が必要以上に美化されてしまったのではないか。
降り積もった気持ちは重みを増していった。いっそ解けてなくなってくれたら楽なのに。
――もう一度彼女に会いたい。
結婚していたらそれで諦めも付くだろうし、美化されていた思い出が壊されるならいっそそれでもいい。
とにかく初恋の呪縛から放たれたい一心で、日本に戻り彼女を本気で探そうかと思い始めていた。
それが、思わぬ縁で果たされることになった。
桜衣は陽真の肩にもたれたまま完全に寝てしまっている。
いつもゆるく結んでいる髪は珍しくおろしている。
はらりと頬に落ちた髪を掬ってそっと耳に掛けてやる。
13年ぶりに姿を見た瞬間、遠目でも桜衣だとわかった。
想像よりも綺麗になってしまっていたけれど、間違いなく彼女だった。すぐに駆け寄りたかったが何とか耐えた。
どうアプローチしようかと考えながら帰宅しようと会社を出ると、彼女を見かけた。
声を掛けようと近づくと、あろうことか男に絡まれているではないか。
慌てて思わず駆け寄り、後ろから彼女を引き寄せようと肩に触れた時、体中にしびれが走るような感覚を覚えた。
――やっとだ、やっと会えた。やっぱり彼女しかいない。
初恋の呪縛から放たれるどころか想いを新たにしてしまった。
その後誘った食事の席で、結婚していないし、今付き合っている男もいないと聞いてどれだけ嘆息したことか。
――だって、そんな相手がいたら奪い取らなきゃならないだろう?
基本、物事にも人にも真っすぐに誠実に生きていたはずの自分に初めて芽生えた昏くて邪な感情。
何とかして、彼女を手に入れたいと思った。
しかし、彼女はやけに他人行儀だった。
何故か頑なに誰とも付き合う気は無いと言う桜衣に正攻法で行ってもダメだと直感し、咄嗟に『結婚しよう』とプロポーズした。
彼女は『いったい何言ってるんだ』という驚きが大きすぎたのか、呆れて遠慮が無くなったようで昔のように接してくれるようになった。
自分でも再会直後に何を言ってるんと思ったが、なりふり構っていられなかった。
どんな形であれ、まずは自分を特別な存在として意識させたい。その後、ゆっくり距離を近づけていけばいい。
『条件』にしてもその為に利用した。
功を奏したのか、当初の頑なさは減り心を許してくれている気がする。