完璧な彼が初恋の彼女を手に入れる5つの条件

 内容を忘れてしまっている彼女が、いちいち困った顔をするのが可愛い。

 しかも陽真のプレゼンを一つ一つ疑わずに受け入れている。
 もちろん全て本当に彼女が言っていたことだが。

 13年間彼女の条件をクリアできる男でありたいと思って生きて来たから、条件を『既にクリアしている』と言う事を証明するのは難しいことでは無い。

――ただ、最後のひとつを除いて。



 タクシーは桜衣のマンションの前に付く

「桜衣、ついたぞ」

 彼女の肩を両手で優しく起こしながら声を掛ける。

「……ん、着いたの、家に?」

「そう。ほら、降りよう。捉まっていいから」

 陽真はカードで支払いをし、何とか彼女を伴ってタクシーから降りる。

「2階だったな、大丈夫か」

 体を支えながら部屋の前まで連れて行く。意外としっかりとした足取りだ。

「……ごめんね結城、ありがと」

「いいから、鍵出して」

 桜衣はゆっくりと鞄からペンギンがモチーフになったアメリカブランドのキーチェーンを取り出す。
 手元が怪しいのでひょいと奪って鍵を開け、桜衣を中に入れる。

 桜衣はふらりと玄関の段差に腰掛けるとパンプスを脱ぎ始める。
 
 陽真はどうやら大丈夫そうだな、と安心しかけたのだが……

「――おい、桜衣そんな所で寝ちゃダメだ」

 パンプスを脱いだ桜衣はそのまま立ち上がらず壁に半身を預け、じっとしてしまった。

「……眠い」

「そんな所で寝たら風邪をひくから」

「……」

 とうとう返事が無くなってしまった。
 
 陽真は溜息を付く。

 ダメだ。完全に寝てしまっている。このままでは冗談抜きで風邪をひく。

 確かに今日の講演会の準備もあって忙しかった。

 責任感の強い彼女はいつも頑張ってしまうから、寝不足だったんだろう。
 
 そんな時に何で飲んでしまったんだろう。危なっかしくてしょうがない。

「……悪い、上がるぞ」
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