完璧な彼が初恋の彼女を手に入れる5つの条件
陽真は一瞬の逡巡の後、玄関に足を踏み入れ、ドアを閉め鍵をかけると靴を脱いだ。
桜衣の膝下に腕を差し入れ軽々と横抱きにする。
『お姫様抱っこ』の状態でキッチンを通り過ぎ部屋の奥に進む。
キッチンの作りに対し、広めの設計になっていて彼女の寝起きしているであろうスペースはすっきりとしているが、置かれたオーク材の家具は物が良さそうだ。
中でもアンティーク風のチェアは存在感がある。
慎重にベッドのクッションの傍らに横たえる。
陽真はそのまま上半身だけ桜衣に覆いかぶさるようにして、肘に体重を預けると至近距離で彼女の顔を思う存分眺める。
「……桜衣?」
頬を撫でながら耳元で囁くが反応はない。
「ったく……」
寝ている顔が可愛すぎて、逆に悪態をつきたくなる。
普段とのギャップがあり過ぎるだろう。
力の抜けた目元、ほんのり色づいた頬、わずかに開いた程よい厚みの唇。
この唇に自分は2度ほど触れたことがある。
でも。
「……今までこの唇を俺以外の男に、どれだけ許したんだ?」
仕事が優先とか、結婚や恋愛をする気になれないと言っていたって、彼女がほっておかれる訳は無いし、きっと割り切って付き合った男位いただろう。
ジリジリと昏い感情が沸き上がる。
過去の男に嫉妬するなんてみっともないなんてわかっているのに。
「でも、今君のそばにいるのは俺だ」
陽真は頬に添えた掌の親指で桜衣の唇をなぞった後、そっと自らの唇を重ねた。
触れるだけのつもりだったのに、その柔らかくて甘く感覚に、もう少しだけ、と口づけを深める
「……ん」
「……っ」
彼女は息が苦しくなったのか、くぐもった声を出す。
吐息のような反応に止まらなくなりそうだ。
さすがに、意識が無い時にこれ以上はまずいと自分を叱咤し唇を離す。
安心しきった寝顔を見ながら陽真は苦笑する。
この先彼女と一緒に居る時間が減る事になる……明日その話もしなくてはならない。
「キツイな」
色々な意味で。
彼女の手が無意識に首元に行っている。暑いのだろうか。
このままだと寝苦しいだろうと、髪を撫でていた手を止め、ブラウスのボタンを上から2つ目まで外してやる。
すると白い首元と華奢な鎖骨が露わになり、思わず目を奪われてしまう。
今の陽真にとっては目の毒でしかないが。
「……俺の眠り姫はとんでも無く無防備だな」
そう呟くと、陽真はゆっくりと彼女のはだけた胸元に唇を寄せた。
やっぱり明日しっかり釘をささないと、と思いながら。