完璧な彼が初恋の彼女を手に入れる5つの条件
「本当に、ゴメン。あのさ、結城……私」
ベッドの上で正座して謝る。うるさかった?と言いかけた所で陽真の視線を正面から受ける。
「桜衣」
「は、はい」
いたたまれず、項垂れたまま答える。
「今後、絶対外で酒は飲まない事」
「……はい」
「飲んでいいのは俺とふたりきりの時だけ、ふたりで家飲みならむしろ歓迎」
「はい……?」
「後、4つ目達成な」
「え?」
顔を上げるとやっと陽真が表情を和らげていた。
「酒に飲まれない人」
「――それが4つ目……?」
「そう。昨日は衆人環視の中、酒の強さを証明してやろうかと思っていたのに君があんな状態になるから。でも遅れて店に着いた後に軽く4、5杯は飲んだ」
飲みたい気分だったし、という。
「今までは一緒に食事してても君が控えているみたいだったから一応俺も遠慮してた。ちなみに、オランダに居た時、アムステルダムのパブで190センチ越えの巨漢の酒豪の友人と40度を超えるダッチ・ジンを飲んでも潰れた事は無い」
「それはすごいね……オランダ人はお酒強そうだもんね」
妙な所に感心してしまう。
「昨日の事は、園田さんとか、一緒にいたメンバーに聞いてくれればいい。飲んだ上で俺は君をキッチリ家まで送ってきてベッドに運んで寝かしたんだ。『紳士的』にね」
「そうみたいね……」
『酒に飲まれない人』
これにも、心当たりがある。
本間の義父はとても誠実でまともな人だったが、酒に弱くて泣き上戸な所があった。
酔うと会社の愚痴など本音出て、感極まると泣いてしまう。
「こんないい奥さんと娘が出来て僕は幸せだなぁ~」と泣き始め、そのまま寝てしまう事もよくあった。
それを困ったわねと笑いながら母が介抱していたが、当時の自分は、そんな義父が女々しく見えたのだ。
今思えば、酒乱でも無いし、むしろ微笑ましいくらいだが、勝手に彼に完璧な父親像を求めていたのかも知れない。
だからあの時に条件の一つに挙げた事は想像できる。
ここは素直に認めるしかないと思った。
いびき云々の事はもう触れないでおこう。自分の為に。
桜衣がおとなしく謝り、認めると陽真は気が済んだようだ。
「桜衣、体調は?」
「うん。大丈夫……結城、朝ごはん食べていく?」
「いや、いいよ。会社に行かなきゃ行けないから一度家に帰る……顔だけ洗わせてもらっても良いかな」
「どうぞどうぞ。タオルは横の棚の所に新しいのあるから使って。じゃあ、コーヒー位入れるよ」
「悪いな」
桜衣はベッドから降り、髪の毛を手で整えながらキッチンに向かう。
シャワーは彼が出て行ってからにからにするしかない。
取り敢えずキッチンで手を洗い電気ケトルでお湯を沸かし始める。