完璧な彼が初恋の彼女を手に入れる5つの条件
何が一番いいことなのか
朝はだいぶ冷え込むようになってきた。
ビルの合間から見える空を高く感じながら桜衣はいつものように出勤した。
今日は1日内勤なので、少しラフな服装――でも首元は開かないアンサンブルニットにルーズフィットのパンツをチョイスした。
仕事を始めると、早速佐野にチャットで話があると呼び出される。
そういえば、3か月前に同じような事があったなあと思いながら、一応ノートパソコンを手に向かう。
「失礼します」
今回はミーティングブースではなく、ちゃんとした会議室だ。
「おはよう」
案の定、会議室の中には陽真もいた。桜衣は彼の斜め前に座る。
「昨日はお疲れ様。講演会、上手く行って良かったねぇ」
佐野はニコニコしながら早速昨日の講演会の事をねぎらってくれる。
「はい、内容も良かったとお客様にも好評いただきました。海営の若手も手伝ってくれましたし
いい経験になったのかなと。早々にアンケートを纏めようかと思っています――けど、今その話で呼ばれた訳ではないですよね?」
佐野は苦笑して「さすが、察しが早い」と話し出す。
「倉橋さんには既に結城さんから話をしてくれたそうだけど、正式に話しておこうと思って。来週から結城さんは精向社に結構工数取られる事になるのは知っているよね」
「海営との兼務の後は外部との仕事なんて、なかなか勝手ですよね」
「そんな風に言われちゃうとなぁ」
佐野は大げさに肩を竦ませる。
「なので、申し訳ないんだけど、結城さんが向こうと行き来する間、倉橋さんの業務負担が増えると思う」
やはり、この話をするために呼ばれたのだ。桜衣にとって良いタイミングだった。
「すみません、その事なんですが」
桜衣は準備していた言葉を切り出す。
「結城さんに行き来して戴く必要はありません」
「え、どういう事?」
「行き来するなんて中途半端な事していただかなくていいと言う事です。そもそも当初から3、4か月というお話でしたし、この際、結城さんは精向社の仕事に専念していただければと」
佐野は桜衣の思いがけない返事に驚いている。陽真も黙って瞠目している。
「そうすると、今まで結城さんと分担していた分が倉橋さんに全部行くことになっちゃうけど」
「はい、何も問題ありません。むしろ自分のペースで出来た方が楽なので助かります。結城さんには向こうで仕事でしっかり成果を上げて頂いて……結城さんの案でコンペ取れれば、ウチが有利になるはずなんですよね?」
「うん、病院内の什器はウチの製品という話になってるね」
「でしたら、なおさらです」
桜衣は笑顔で言い切る。