完璧な彼が初恋の彼女を手に入れる5つの条件
「うーん、正直な所、先方からは結城さんにはメインでプロジェクトにあたって欲しいと言われていたから助かるけど……結城さん、どうします?」
「……少し、倉橋さんと話をさせていただいていいですか?」
佐野が陽真に視線を移すと、今まで黙っていた陽真が口をひらいた。
分かった、と佐野が会議室を出て行き陽真とふたりきりになる。
「……桜衣、何を考えてる?」
「何って、今佐野さんに言った通りよ」
「わかってるだろ?ただでさえ君は忙しいのに。負担を増やすのは最小限にしたいんだ」
――言うと思った。
桜衣は心の中で笑う。なんだろう、妙に気持ちがクリアだ。
陽真の事だ、桜衣との仕事も並行してこなそうとするし、もしかしたら出来てしまうかもしれない。
でも、前から思っていた。彼が本来したいことは建築設計の仕事では無いのか。
その証拠に、今朝プロジェクトについて桜衣に話す彼の顔は見たことが無い位生き生きとしていた。
新病院の建築設計。普通なら兼務してやるような事ではない。
陽真にはINOSEの事も自分の事も一切気にせず、やりたいことをやってほしい。
その経験は今後の彼の大きな武器になるはずだ。
――彼にとって何が一番いいことなのか。
桜衣は大げさにため息をつく。
「そういう言い方されると、私が碌に仕事が出来ないと思われている気がして嫌なのよ」
「そんなことは」
陽真はさらに当惑を深める。
「大体、現場見たいって強引にねじ込んできたの、そっちでしょ。私だって、この会社で何年も頑張ってやって来た。それを中途で入って数か月の人に仕事の心配されるなんて、バカにされているような気持になる。結城がいないと仕事が回らなくなるとでも思ってるの?そろそろ自分のペースでやらせてもらうわ」
張ったりだが、仕事に関しては少し自分の本音と意地も入っているなと思いながら畳みかけるように言う。
「それに……条件だ、ゲームだなんだって色々言われてたのも、最初は面白かったけど、さすがに飽きて来たのよね」
「桜衣?」
「そもそも条件なんてどうにだって言えるわよね。だって、内容、私が覚えていないんだから。からかうの、もう終わりにして欲しい。お互いちゃんと仕事しよう」
彼からスッと表情が消えたのが分かった。
「君は……それで、いいのか?」
「いいから言ってる」
真っすぐな目で陽真が自分を見ている。
その目は桜衣の表情から本心を確かめようとしている気がする。
桜衣はその秀麗な顔をしっかりと見返す。
目を逸らしたらいけないと自分を必死に叱咤する。
一瞬のはずの沈黙がやけに長く感じた。
「……わかった、そうさせてもらう」
感情の無い声で短く言うと、陽真は静かに立ち上がり会議室を出て行った。
室内に再び訪れる静寂。
体全体に籠っていた力が抜け、思わず無言で会議テーブルに突っ伏す。
これでいい、と思った。